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ゲス共の行く、異世界奇譚  作者: 波川 色乃
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M04 深夜の招集

……これは果たして真壁視点と言えるだろうか

ちびっとフェルトル視点?

いや、第三者視点……なの、か?


***


 急遽一階のロビーに呼び集められた勇者たちは、皆機嫌が悪かった。それもそのはずである。なんといっても現時刻は深夜の二時半。疲労の溜まった体で起きていられる時間帯ではない。同室の者や仲の良い者と集まって、やれ何の用だどういうつもりだと愚痴りあっている。

 そんな中、真壁だけがいやに静かだった。


「悠人? どうかしたの?」

「えっ、あ、ああ。……悪い」


 心配そうな顔をした青海が真壁の顔を覗き込む。それに気づいた真壁はハッとしたように周りに集まっていたいつもの三人を見てまた顔を陰らせた。

 その反応に青海たちは顔を見合わせ、よっぽど眠いのだろうかと首を傾げる。

 振り返った彼らの中に雪の姿がないことに、真壁は胸の奥がズキリと痛むのを感じた。一人欠けた光景を見ていたくなくて、真壁は三人から目を逸らす。彼らにも、言わなくては。


「なあ、楓……」

「皆さん、大変お待たせいたしました」


 真壁が三人に声をかけようとしたタイミングで勇者たちを呼び出した本人、フェルトルが現れた。どうしたのと聞いてくる青海に後でな、と返して真壁はフェルトルの方を向いた。


「こんな時間にお呼びだてして申し訳ありません。ですが、今すぐ皆さんにお伝えしなくてはならないことが──」


 ダンッ


 フェルトルの言葉を遮って打撃音が響いた。何事だと音がした方を振り返れば、ロビーに続く廊下の壁に右足を蹴り付けた格好の生徒が立っていた。


「──オイ、おっさん。こんな真夜中に一体何の用だァ? オレらはテメェらの指示に従って毎日毎日訓練してんだ。疲れ切ってんのは分かってんじゃねぇのか? あ゛? ハッ、それともなんだ? 『これも訓練です』なんて抜かすつもりか? ……ふざけた用件だったらぶっ殺すぞ」


 地を這うような脅しの言葉に、生徒たちは息を呑んだ。フェルトルの喉奥でヒュッと空気を吸い込む音がした。


 ──なんだ、この男は。本当に平和な世界の学生なのか? このような濃密な殺気、まるで歴戦の傭兵ではないか。


 フェルトルの頬を一筋の汗が伝った。背中のシャツがいやな汗でじんわりと滲む。青年の瞳は、暗闇に光る魔族の瞳孔のように赤い光を放っていた。


「……も、申し訳ございません。ですが、このことはどうしてもお伝えしなくてはならないのです」


 青年の目がこちらを見ている。何かを読み取るような、見定めるような目だ。一介の学生がするような目ではない。


 ──これは、逸らしてはダメだ。


 直感的に何かを感じ取ったフェルトルは、早く逃げろと叫ぶ自分を押し殺し、唇を噛み締めながらしっかと開いた目で彼の瞳を見つめ返した。


「…………チッ」


 何とか声を絞り出したフェルトルの目をじっと見つめていた青年は、不機嫌そうに舌打ちを一つこぼすと、壁についていた足を下ろした。

 漸く捻り潰されそうな視線から解放されたフェルトルは人知れずほっと息を吐いた。




 青年、矢野(やの)羚悟(りょうご)は学校全体でも有名人だった。宮田が校内外で暴れまわって学校でも有名になったのに比べて、矢野は特に何もしていなかった。

 髪も染めていないし、制服だってそこまで着崩してない。クラスのカースト上位、いわゆる陽キャと呼ばれる男子にとっては普通な程度。

 その以上に冷たい目を除けば、外見で特に変わった点はない。至って普通の生徒だ。

 ただ、部活に入らず、授業も度々サボり、遅刻早退は日常茶飯事。そんな学校生活を送っていたものだから、彼は不良なのだという認識がまずクラスの面々についた。


 それから暫くして、深夜のネオン街で矢野の姿を見たという噂が広まった。

 学校は休みがちで交友関係もほぼない。そんな生活を送っていた矢野であったから、見間違いじゃないかと言い出す人間は少なかった。皆がどこかやっぱり、と思っていたのだ。


 それからまた暫く経った頃、暗い路地裏で怪しい男と立ち話している矢野の姿を見たという生徒が現れた。

 何でも塾の帰りにたまたま通った暗い道から、月明かりに照らされる矢野と金髪の男が見えたのだという。その男は黒いスーツにサングラスを頭に乗せていて、カタギの人間には思えなかったんだそうだ。


 そんな話を聞いた人間の中に、とびきりのバカが混ざっていた。何とそのバカ、登校してきた本人に直接聞きに行ったのだ。ちなみにこのバカ、山路という男である。


『ねぇねぇ矢野クン。キミさぁ、夜の路地裏で危ない男のヒトと会ってたってホント?』


 にこにこと、いつもと変わらない顔で山路が問う。矢野はこの時、目撃したという生徒を睨んでいた。その生徒曰く、「殺されると思った」ほど鋭い睨みだったようだ。

 殴りかかるか蹴り飛ばすか、教室中がビクビクと怯えた空気に満たされた。けれど、予想に反して矢野は暴力に訴えなかった。


『……ああ。そうだな。アイツがお前の言う『危ないヒト』に分類されるならそうだ』


 それどころか、認めたのだ。


『えっ、マジ!? じゃ、じゃあじゃあ! 今年の夏頃、深夜のネオン街にいたってのは!?』

『あ? 夏頃? ……いちいち覚えてねぇよ』

『それってしょっちゅう行ってるってことだよねっ!?』

『……だからなんだよ』

『いっやーー? べっつにぃー? ぬぁぁんでもー?』


 こうして、矢野はたちまち有名人になった。裏のヤバい人と繋がってるヤバい奴、として。




「……それでは、改めて説明させて頂きます」


 空気を変えるための咳払いをして、フェルトルは話し始めた。

思ったより長くなったのでここで切りマス

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