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卒業式に君と僕だけの記憶を作ろう

作者: ポン酢

 卒業式。


 それは僕たちがもう子供ではいられないことを実感させてくる。


 今年で義務教育も終わり、皆それぞれ違う道を歩み出す。働き始める者もいれば、専門学校に通う者、僕のように高等学校に進む者もいる。


 そんな一区切りの卒業式に皆はどんなことを思うのだろうか。


 新天地で新たな出会いを願い、その時を待ち望む者。逆に別れを惜しみ、その時を嘆く者もいるだろう。




 僕は後者だ。


 君と一緒にいたい。いつまでも今のままでいたい。


 だが無慈悲にも別れの時は迫ってくる。


 ならせめて、最後に忘れられない、君と僕だけの思い出を作ろう。






 黒板に書かれた、卒業式まであと三日!!という文字を二日と書き直す。黒板消しをクリーナーにかけ日直の仕事を終えて帰りの準備をする。


「もうちょっとで卒業かぁ」


 そう言ったのは僕の幼馴染の夏希。教室の窓から顔を出し外の風景を見下ろしている。


 見下ろす風景が綺麗。それは交通の便が悪い山上の学校の唯一の良いところと言っても過言ではないだろう。




 教室の窓から差し込む西日が彼女を凛々しく照らしていた。こんな時間まで教室にいるのは僕と彼女しか居ない。


「そうだね。…夏希は専門に行くんだよね」


「うん、私看護師になりたいから。…健也とは離れ離れになっちゃうね。ちょっと寂しいな」


「そうだね、僕も寂しい」


 夏希とは小さい頃はずっと一緒に遊んだものだった。中学に上がった頃から互いに忙しくて遊ぶ機会も無くなってしまったけど。




「ねぇ健也」


 彼女が僕の名前を呼ぶ。


「どうしたの」


「私と...連絡先交換しない?これからは離れ離れになっちゃうから」


 夏希が取り出したスマートフォンにはチャットアプリが開かれている。僕も夏希も最近卒業祝いの前借りでスマホを買ってもらったから連絡先は親くらいしか登録されてない。


「確かにこの際だしちょうど良いかもね」


 僕も夏希の連絡先知りたかったし、ちょうどよかった。




 教えられたIDを打ち込むと夏希の可愛い顔が写ったアイコンが表示される。友達追加と、これでオーケー。


 よろしくと送信すると夏希から女の子らしいスタンプでよろしくと返ってきた。...もう僕より使い慣れてるな。まだイマイチ分かってない機能とかいっぱいあるのに。



「じゃあ、帰ろうか」


「そうだね」


 そう言って荷物を持ち僕らは歩き出す。


 ふと振り返った時に見えた卒業式まであと二日!!と言う文字が黒板の中で寂しく佇んでいるように見えた。






 卒業式を迎えた。


 天候は晴れ、桜はちょうど満開を迎え、まさに最高の卒業式と言えるだろう。


 卒業式は特に変わったこともなく淡々と進んだ。入場しその後一人一人名前を呼ばれ校長先生から卒業証書を受け取っていく。あれを受け取ったら僕らはもう中学生では居られなくなる。

 それにも関わらず受け取る姿はどこか堂々としているようだった。


 やがて僕の名前も呼ばれた。

「はい」と声を張り上げ、立ち上がり壇上までの道をゆっくりと歩く。

 壇上まで歩くと校長先生から卒業証書を受け取った。


「卒業、おめでとう」


「ありがとうございます」


 受け取った後握手をし一礼する。


 僕は今堂々と振る舞えているだろうか。卒業生らしく、堂々と道を歩めているだろうか。


 振り返って壇上から見えたのは人で溢れる体育館の姿だった。この景色を見るのは2回目。1回目は小学校の卒業式だった。


 その時僕は改めて実感する。あぁ卒業したんだと。

 そう思うと自然と堂々と歩くことが出来た。

 自分の席まで歩いた時僕の心はすっかりと晴れていた。


 卒業式は終わった。




 あの後1回教室に戻り、ホームルームをしたあと解散となった。


 最後のホームルームはもう無茶苦茶で最後には泣いたり、騒いだりして終わった。このくらいがバカ騒ぎする方が中学生らしくてちょうどいい。


 各自が別れを告げ帰っていく。やっぱり終わりは呆気なくて少し寂しく感じる。


 僕も帰ろうか、そう思い夏希を探したが見当たらなかった。先に行ったのかな。待ってくれても良かったのに。




 中庭まで行くと両親と夏希の両親が迎えてくれた。


「健也くん3年間お疲れ様。これからも夏希と仲良くしてあげてね。いつ家に来てもらっても構わないからね」


 夏希のお母さんが声をかけてきてくれた。


「ありがとうこざいます。時々行きますね」


「何時でもおいでね」


 そう言って貰えると助かる。...よくよく考えると今までも普通に行ってたな。


「健也、迷惑なんてかけないでよね」


「母さん、大丈夫だって」


 心配し過ぎだよ。まぁ心配するのは分かるけど。


「そうそう、健也くんほんとにいい子だから大丈夫よ」


「そう?それならいいんだけど」


 お母さんと夏希のお母さんは高校生からの友達らしく今でも仲良く話してたりする。前なんて道端で話してたし、昭和か。


「そういえば健也くん、夏希知らない?あの子がいないところで言うのはちょっとねぇ」


 そういえば夏希の姿が見えない。


「さっき教室にはいなかったからてっきり先に来てるかと。ちょっと探してきますね」


 あいつどこいったんだ。




 教室に戻ると夏希がいた。1人、教室で自分の席に座っている。


 さすがに教室には夏希以外誰もいないらしく、3日前みたいな、なんて思ったりした。


「健也かびっくりした。...でもまぁ、健也で良かったな」


「何してたのさ、母さん父さん待ってるぞ」


「ごめんごめん、すぐ行くつもりだったんだけど教室見てたら色々思い出しちゃって」


 夏希は椅子から立ち上がり後ろに手を組みながら申し訳そうに言った。


「実はさ、この後すぐに引っ越すんだ」


「え?」


 その唐突な言葉に頭が真っ白になった。


「私が通う専門学校がさちょっと遠いから一人暮らし始めるんだ。...ごめんね、こんな形で伝えることになっちゃって」


「そっか、いつぐらいに行くの?」


「明日の朝には行くつもり。早く一人暮らしに慣れないと大変だろうから」


「そっか...」


 夏希が明日居なくなる?嘘だ、そんなの嫌だ。

 いつか離れ離れになることは分かっていた。...だけどこんなに唐突に別れになるなんて...、いや言い訳だ。こうなることは最初から分かってたんだから。覚悟を決めてなかったのは僕だ。

 離れたくない。その気持ちが心を覆う。


 だけど、僕がそれ止めることは出来ない。夏希の夢を壊すことになるから。




 だけど、気づいたら僕は夏希の腕を掴んでいた。


「夏希」


「どうしたの急に」


 前から言おうとは思っていた。だけど、踏み込むことが出来なかった。でも、言うチャンスは今しかないんだ。


「好きです。僕と付き合ってくれませんか。夏希と離れたくない」


「...っ!?」


 そう言うと夏希は俯いてしまう。...え?どっちなの?結構勇気出して言ったんだけど。




「...健也は私の事好きなの?」


「うん、ずっと好きだよ」


 ここまで来たらもう引けない。好きなのは本当の事だし。


「...あー、もう!ずるい!」


「ず、ずるい?」


 よく言ってる意味が分からない。


「そうよ、健也はずるい!私は勇気出なくて言えなかったのに!!」


「えっと、どゆこと?」


「私だって健也と離れたくなくて...でも言えなくて。とりあえず連絡先交換って形に持っていったのに」


 夏希は髪をクシャクシャに掻いている。そんなことするから髪が乱れてる。夏希、毎日時間かけて整えてるのに。




「健也、私も好きよ。...その付き合ってください」


 その言葉を聞いて僕は崩れ落ちた。


「健也!?大丈夫?」


「大丈夫大丈夫、なんか安心して腰が抜けちゃって」


「もう、心配させないでよ。ほら」


 夏希が手を差し伸べる。僕はその手を掴み立ち上がると夏希の顔がすぐ側にあって反射的に離れてしまった。


 向こうも同じだったらしく振り返るとまた顔が会う。


「その、これからもよろしく」


「はい、よろしくされます」


 夏希は顔を赤くしながらそんな事を言った。


「ふっ、なんだよそれ」


 思わず笑ってしまった。照れ隠し的な意味もあったかもしれない。




「ちょっと笑わないでよ。今いい所だったじゃない」


「ごめん、でも面白くって」


「もう、まぁそれはそれで健也らしいか。ほらみんな待ってるんでしょ。早く行かないと」


「そうだった、早く行かないと」


 やばい、完全に忘れてた。


 教室のドアを閉めて親の元に向かう。




「ねぇ、健也」


「どうしたの」


 中庭に向かう途中夏希が話しかけてきた。


「その、大事にしてよね」


「もちろん」


 歩いていると夏希が手を絡ませてきた。僕はそれを受け入れもう離さないようにギュッと握る。


 いわゆる恋人繋ぎと言う奴だ。うん、最高。




 僕はどれだけ時間が経っても今日の事は忘れないだろう。


 僕は夏樹の手を握りながらそんな事を思っていた。


 皆それぞれの道を進んでいく。


 でも全く違う道じゃない。向かう方向は違ってもきっとどこかで道は繋がっている。


 これから離れ離れになってしまうけれどこの好きという気持ちだけは変わらない。


 きっと僕らの未来は明るい。


 そう思った。



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