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名無某の真名探し  作者: 雪臣 淑埜/四月一日六花
第一章 瀬戸ケ谷 和也――『欺瞞のピエロ』
4/9

欺瞞のピエロ IV

好きなネタい手さんはふに(妹)さんです。


かわいがってください。


 03


 しかし、瀬戸ケ谷くんのやたら必死な様子から見るに、彼が嘘をついているともあまり考えられない。彼の道化(どうけ)る性質に目を瞑りさえすれば、彼が語った信じられない話は、一瞬にして、信じざるを得ない話に転変する。すでに重要な情報は揃っている。一つ目は、瀬戸ケ谷くんの言うストーカーの女の子とやらは、彼の家付近、言い換えれば僕の家付近に出没するということ。二つ目は、その子は夜に現れるということ。それから三つ目、その女の子は、この世のものではないかもしれないということ。これらの情報があればもう充分である。念を押しておくが、決して瀬戸ケ谷くんのためだとか、彼の友人であるからとかではなく、ただ好奇心がゆえに、僕はその不審な女の子の正体を突き止めるつもりである。

 その日の夜、涼しい風が窓の網戸からするりと入ってきて、僕の頬を優しく撫でていた時、僕は鳥飼と携帯電話のチャットでやり取りしていた。今日瀬戸ケ谷くんから聞いた話を、余すところなく鳥飼に伝えたのである。

 『瀬戸ケ谷くんをストーキングする物好きな女子は、地球上にいるの?』

 珍しく彼女にしては容赦のない毒舌であった。しかも僕が瀬戸ケ谷くんに言ったこととほとんど同じである。

 『多分いるんじゃないかな』

 と、僕は返信した。

 『その根拠はなに?』

 『根拠というか、推測に過ぎないけど、僕が思うに、あいつは、嘘をつくなら、もっとリアリティーのある嘘をつくんだよ。面白みのある、人を巧みに騙せるような嘘をつくやつだ。ストーカーに狙われているだなんて、すぐにバレる意味のない嘘、あいつがつくとは思えない』

 瀬戸ケ谷くんを狙う女子なんて地球上には存在するはずがない、これは周知の事実だ。僕も鳥飼もわかっていることだ。おそらく、瀬戸ケ谷くんにだってわかっている。なのに、彼が急にストーカーに狙われているなんて嘘をつくのはおかしい。おかしいからそれはきっと嘘ではない。なら、何か?それは嘘でなかったとしたら、真実でしかないのではないか。だから僕は、ストーカーの存在を否定する素振りこそ見せたけれど、その実瀬戸ケ谷くんに付き纏うストーカーの存在を肯定しているのである。それから、そのストーカーは、()()()()()()()()()()という可能性も一応念頭に置いている。これについてはにわかには信じ難い話ではあるから、さすがの僕もこれを完全に肯定することはできなかった。

 ほどなくして、鳥飼から再び返信が来た。

 『で、不知火くんはどうするつもりなの?』

 「......」

 どうするって。

 『気になるから、そのストーカーをとっ捕まえてみようと思ってる』

 『危ないんじゃない?それって』

 『心配しなくていいよ、もしもそのストーカーから何か害を被った場合、僕のナックルパンチをそいつにお見舞いしてやるさ』

 『君が刹那にぼこぼこにやられるフラグが立ってるような気がするんだけど......』

 「......」

 鳥飼ってこんなに毒舌キャラだったっけなあ。

 『とにかく、今からあいつの家の近くで張り込んでみるよ』

 『君がストーカーと勘違いされそうだね......』

 『それはたちの悪い冗談だ。じゃあ僕は行くよ』

 『......不知火くん、どうしても行くの?』

 『え?うん』

 『瀬戸ケ谷くんのため?』

 『......どうだろうね』

 と、その曖昧模糊(あいまいもこ)な返信を送ったことを最後に、僕は携帯電話の電源を切り、外套(がいとう)羽織(はお)って出かけた。

 寒い。

 春の予兆があまり感じられないほどの寒さである。外套で身を包んでもなお、風が少しばかり袖口や、襟口から侵入し、僕の体温を無情に奪いつつあった。

 瀬戸ケ谷くんのために寒い外に身を投じたなんて、思いたくない。思ってしまったら、きっと僕は彼のことが腹立たしくなり、次に会うとき勢い余って彼をこてんぱんにしてしまうかもしれない。

 そうだ。

 これは好奇心に身をゆだねただけの行動、つまり()である。

 決して瀬戸ケ谷くんのためではないことをここに(しる)す。

 


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