対戦
約束をしてから、学校の帰りに毎日無詠唱についてリルとミリアに教えていた。あれから数日、二人の筋はどちらもいいのだが、どちらかといえばミリアの方が筋が良かった。
それからまた数日、アルナの部屋にリルとミリアが飛び込んできた。
「だから、ノックをしろって」
「それどころじゃないのよ」
「それどころじゃないんだよ」
二人してハモってそういってくる。いったいどうしたというのだろうか。よく見てみるとリルの右手に何かの紙が握られている。
「その紙が原因か?」
コクと頷き、アルナの目の前に紙を広げてくる、そしてミリアがその紙を指さす。
その紙の内容はこうだった
[3日後、S~Cクラスでのクラス内で対戦トーナメントを行います。全5日の日程となります。実戦になれるためのものですので、全力で戦ってください。
当日は、回復の得意な先生が待機してますので、ケガについてはご心配なく。]
「ね、すごいでしょ!」
ミリアがはしゃぎながらそう言う。二人ともこのトーナメントが楽しみで仕方ないらしい。それから、3日というのはあっというまに過ぎ、トーナメント当日になった。
[1日目 Cクラストーナメント]
Cクラスのトーナメントは初級の魔法のみが飛び交うような試合運びになった。初級の魔法しか出てこないので、いかに工夫して魔法を使うかが重要で、魔法の後ろにもう一つ魔法を放ち相手に当てやすくするといった工夫をしている子が優勝していた。
[2日目 Bクラストーナメント]
Bクラスのトーナメントは一部中級までの魔法を使える人がいて、その子達が上位勢となった。あとは単純な火力勝負に持っていく感じが強かった。中級が使え、火力の高い子が優勝していた。
[3日目 Aクラストーナメント]
Aクラスのトーナメントは初級と中級を織り混ぜながら、応用魔法なども使っていく戦いになっていた。中級の炎魔法を初級の風魔法で爆散させるみたいな感じだ。ちなみに、この子が優勝していた。
[4日目 Sクラストーナメント]
ようやくSクラスの試合の日となった。試合のトーナメントは、順当に勝ち進んでいけば準決勝でミリアとリルが当たることになる。俺はというと、なんだかよくわからないが、特別シード枠というものらしく決勝に上がってきたものと戦うというものらしい。決勝戦のみは、魔力の回復を行うということで、次の日になるらしい。
「リル、準決勝で戦おうね」
「ミリアと戦うのを楽しみにしてるわ」
二人はもう準決勝で戦うつもりらしい。この二人の実力なら大丈夫だろうが……
「油断はするなよ」
「それでは、ただいまよりSクラス対戦トーナメントを開始します。第一試合……」
「始まったわね」
「うん、リルは第三試合でしょ?」
「そうよ、そろそろ控え室に行ってくるわ、ミリアは第七試合よね?頑張って」
「うん、リルもね、アル君と応援してるからね」
そんな話をして、リルは控え室に向かっていった。
リルは控え室に向かいながら、試合のことを考える。おそらく今までの実力からして、苦戦を強いられるのはミリアとアルナだろう。アルナとは勝負になるきもしないが…。控え室で準備を整え、会場への道を進んでいく、会場からの歓声が聞こえてくる。すこし手前で止まり第三試合開始を待つ。
「それでは、お待たせしました。続いて第三試合を開始します。リル・シルビアVSシム・アーガス」
リルは前に進み会場へと出る。反対側からはシムが同じようにでて来ている。
「それでは、バトル開始!!!」
バトル開幕と同時にシムが詠唱を始めた。
「風よ鋭い刃となり彼の者を切り刻め…」
リルは初級魔法の風刃だと予想した、そして目眩ましなど、何かに使う気でも初級程度ならどうとでも出来ると、リルはミリア以外は自分の敵にはなりえないと考えていた、そう、油断していた。しっかり警戒していれば、途中で止めれていたのかもしれない。
逆に相手はリルを強い相手だと警戒して、この一撃で仕留めに来ていた。そう、一撃に全身全霊を込めて。
「風よ鋭い刃となり彼の者を切り刻め…………見えなき無数の刃よ、砂塵の嵐となって埋めつくし刻め風砂塵猛刃」
最初の詠唱はフェイクだった。砂が渦となってリルを囲み見えなくなる。これでは、中にいる人は切り裂かれて、大ダメージだろう。シムは自分の中での、最高の魔法を最高の形で相手に当てることができた、故に勝ちを確信していた。
通常の者なら、これで戦闘不能だっただろう。しかし、リルはアルナの授業で普通ではなくなっていた。砂煙が消えていき、誰もが-アルナとミリアを除いてはだが-そこにはリルが倒れていると思っていた。しかし、リルは倒れてはいなかった。
……しまった…リルは相手を十分に警戒していなかったことを悔やんだ。たちまち自分の周りが砂煙に覆われていく。おそらく、アルナに無詠唱について教えてもらっていなければ、対応できなかっただろう、それほどの魔法だった。
こちらも風を発生させて、内側から相殺することによって助かった。無詠唱による素早い魔法のおかげだ。相殺したことにより、周りが見えてくる。最初に見えたのはシムの驚愕した顔だった。こちらから何かしなくても倒れそうなくらいに、体力を消耗している。それだけの力を込めた一撃だったのだ。
風で足元をはらってあげるだけで、シムはそのまま倒れてしまった。
「シム選手、渾身の魔法で攻撃するもリル選手に相殺され、ダウン
第三試合、勝者リル・シルビア」
歓声が響く。
「やったな!リル」
「油断していたのは危なかったけどね、もう油断しないわ、ミリアはもう控え室?」
「ああ、控え室に行ったぞ」……
「第七試合、勝者ミリア・ヘルミーネ」
ミリアも無事勝利した。二人とも順当に勝利していき、ついに準決勝となった。
「お待たせいたしました、ここまで圧倒的な力で勝ち進んできた、二人による準決勝です。リル・シルビアVSミリア・ヘルミーネ」
会場が熱くなっていく。
ミリアは開始の合図が来るのを静かに待った。
「それでは、バトル開始!!」
ついに、ミリアとリルの戦いが始まった。ミリアは氷のつぶてを打ち出していく。しかし、リルの炎の玉とぶつかり消えていく。第三試合を見ていても弱点は掴めていない。リルが距離を詰めてくる、リルは体術もそれなりにできるので、接近戦で殴りあうのは避けたいところだ。
防御結界を張り後ろへ下がる、その防御結界にヒビが入る。拳に促進をかけていたに違いない、こちらから責めていかないと、責められ続けていずれ力尽きてしまう。
ミリアはリルに向かって飛水で水をリルに被せる。リルはダメージを受けていない…当たり前だ、これは次への布石。
すぐさま次の攻撃に繋げ、雷一線を打ち込む。リルはジャンプし避けようとするが、追尾によってリルに直撃した。バリバリっとすごい音と共に、リルが地面に落ちる。水をかけたことによってダメージは倍増しているはずだ、いくらリルといえどもこれでは立てないはずだ。
しかし、リルは倒れていなかった、しかしさすがにダメージは受けているようだ。よく見ると濡れていたはずの体が、乾いてしまっている。推測になるが、おそらく風か炎で乾かしたのだろう、そのため戦闘不能は避けたということだ。さすがという他ない。
ミリアは詠唱を始める、高位の魔法までは二人ともまだ無詠唱ではできないからだ。
「大気に満ちる空気よ、凍て尽くせ…」
だがその詠唱を許すほど、リルは甘くなかった。すぐさま走り込んで目の前まで来たのだ。しかし、そこまでがミリアの狙い通りだった。詠唱を中断し、手をリルに向け氷硬弾を打ち込む……拳よりもわずかに氷硬弾のほうが速く、リルを吹き飛ばす。会場の端まで吹き飛び、ぶつかって地面へと落ちる、が寸前の所で障壁を張っていたため、会場の端にぶつかった衝撃を和らげていた。リルは即座に攻撃に転じ、火球を打ち込み自分も迫ってくる。
ミリアは咄嗟に氷硬弾で火球を相殺する、2つの魔法がぶつかり合うことで水蒸気が発生し、視界が遮られる、そのモヤの中から飛び出してきたのはリルだ。促進を乗せた拳がミリアのお腹にヒットし、先ほどとは逆にミリアが吹き飛び会場の端にぶつかる、がリルも同じように会場の端で倒れている。
そして、よろっとしながらもミリアが立ち上がる。
リルは倒れたまま動かない。
「準決勝、勝者ミリア・ヘルミーネ」
少ししてユラユラとリルは起き上がった。
「本日の日程はこれにて終了です。明日の決勝戦をお楽しみください。」
というアナウンスと共に、本日の日程は終了した。
「ちぇっ、負けちゃった」
「でも、ギリギリだったよ」
当たり前のように俺の部屋で雑談中だ。
「まさか、吹き飛びながらもう一回氷硬弾を打ち込んでくるとはねぇ…
明日はアルと決勝だから、がんばりなさいよ!」
「う~、自信ないよ~、アル君手加減してよ?」
「手加減って言われてもな~……」
「初級のほうの魔法だけっていうのはどう?」
「そうしてよ、アル君。アル君強すぎるもん」
「分かったよ、それでやってみるよ」
そんな話をしながらその日は終わった。
そして、決勝の日
「みなさん、おはようございます。今日は待ちに待った、決勝戦。ここまで勝ち進んできたミリア選手、今日も勝利をもぎ取ることができるのか!!
そして、規格外の強さということで、特別シード枠のアルナ選手、どちらが勝利を掴み取るのか。」
目の前には、ミリアが対面している。昨日俺やリルとしゃべっていたからか、今見る感じでは緊張はなくなっているように見える。そこで、アナウンスがかかった。
「それでは、決勝戦ミリア・ヘルミーネVSアルナバトル開始!!!!」
バトル開始の合図と共に、まず動いたのはミリアだった。氷硬弾を空にどんどん打ち込んでいく。会場がざわついている、上を見てみると氷硬弾が何個も空中で止まっている、落ちてくる気配はない。
一応、壊しておこうと攻撃しようとするが、ミリアがそれをさせないように攻撃してくる、よく考えて来ている。一先ず、こっちは無視しておこう、倒してしまえば関係ないわけだ。まずは、炎矢を打ち込むがさすがに氷で打ち消される。
炎矢をミリアに打ち込んでいる間、ミリアはそちらの打ち消しにつきっきりになっている、その隙を狙って炎矢を空中の氷のほうにも打ち込んでいく……絶対に砕かれないように魔力をだいぶ込めているらしい、少し溶け水滴が落ちるくらいで砕くことができない。
ミリアが動く、凍結でアルナが立っている地面が瞬時に凍ってしまい、アルナの動きを止める。空中の氷が少し溶けたことによる水滴と炎矢と氷が打ち消しあったことによる水蒸気によって、氷結の発動スピードがかなりアップしていた。動きを止めた瞬間に空中の氷硬弾が一斉にアルナを狙う。瞬間、氷のつぶてがアルナを襲った。
アルナに氷のつぶてがぶつかり壊れていき、その破片で姿がどんどん見えなくなっていく。空中にあった氷硬弾がすべてぶつかり、しばしの静寂が訪れる。
まだ姿が見えない状況から、風が発生しミリアを包み込む、しかし、たかが風すぐに抜け出せばいい。しかし、そう簡単にはいかなかった。次の瞬間には、その風に巻き込ませる形で炎が組合わさる。ミリアを包むそれはもう、風と炎の合わさったものではなく、炎の空柱に変化していた。
初級魔法だけで上位の魔法に変化させることは簡単ではないし、普通は行わない-相手の虚を衝くという点以外では-ため、観客たちは驚きを隠せない。上級になってしまったアルナの魔法に閉じ込められたら、今のミリアでは抜け出すことができない。ギブアップを魔法思念でアルナに伝える。炎の柱がたちまち消え、ミリアの姿が見えてくる。改めて全員に分かるように、ミリアがギブアップを伝える…。
「ミリア選手、アルナ選手の魔法の威力にたまらずギブアップ、勝者アルナ選手
よって今回のトーナメント、優勝者アルナ選手」歓声が響いているなか、Sクラストーナメントは幕を閉じた。
優勝したからといって何かもらえたわけではなく、またいつものように、俺の部屋にミリアとリルが来て雑談している。
「本当に初級の魔法だけで負けちゃったよ」
「やっぱりアルはおかしいわね」
「おかしいって、もっと言い方があるだろ」
「いや、アル君はおかしいよ?」
二人は高位の魔法も無詠唱で打てるようにしたいと言ってきた。また、学校が終わった後に教えていくことになるだろう。
クラストーナメントから数日、大きなイベントが終わって日常に戻るかと思ったが、また大きなイベントがすぐそこに迫ってきていた。
毎日投稿です