表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

1.(2)

 ミーティングルームには、既に5、6人が着席していた。

 奥のホワイトボードの前が4席程空いているが、楕円形のテーブルはぐるりと見知った顔が囲んでいる。


「何だ、制作部のチーフ、全員参加かよ」


「らしいな」


 入口近くの空席に、熊田と並んで腰掛ける。因みに、コイツとは同期。俺の3課はRPG専門だが、熊田の4課は育成ゲー専門だ。


「おい、小林。お前さぁ、バイト君使い過ぎじゃね?」


 テーブルに身を乗り出して、向かいの若者に話しかけたのは、8課の八雲(やくも)だ。こんなインドアの稼業には珍しく、浅黒い肌に加えて、髪も髭も毛深い。


「やだなぁ。格闘ゲーは、バグ出やすいって知ってんでしょ。これでも予算ギリギリですって」


 小柄な小林は、一層身体を小さくして畏まるが、それでいてニタニタといやらしく薄ら笑いを浮かべている。ヤツは2課、主に通信ソフトで高収益を稼ぐ、我が社のドル箱部門を率いるだけに、若手ながら人を食う態度は健在だ。


「2課のせいで、バイトが次々に辞める、入れ代わり激し過ぎるって、人事から苦情出てんだよ。ちっとは考えてくれや」


「この業界、意外とブラックだって知らない若者が多いんですよねー」


 他部門からの苦言なんぞ、馬耳東風。悪びれない小林に、八雲は小さく舌打ちした。


「バイトって言えば、キューさんには、困ってるのよねぇ」


 6課の峯湖(みねこ)がつり目を更にキュッとつり上げた。彼女は、手元のミルクティーのペットボトルを一口飲むと、キューさんこと9課の久良(ひさら)さんの苦情を吐露する。


「可愛いコと見れば、上手いこと言って引き抜くんだから。いくら古参でも、止めてもらいたいわ」


「ああ……またか」


 身に覚えのある者は、彼女だけではない。数人が溜め息を吐き、苦虫を噛み潰した。

 かく言う俺もその1人。つい3ヶ月前だったか、ようやく仕事を覚えたばかりの美人のバイトちゃんが、キューさんの歯牙にかかって籠絡されちまった。

 『9課に移らせてください』――血走った瞳で訴えてきた彼女を、引き止めることは出来なかった。ま、無理矢理止めても、こうなっちまっては使い物にならない。


「ちゃんとテリトリーは守ってもらわなくちゃ、やってらんないわよ」


 峯湖は心底嫌そうに吐き捨て、もう一口ミルクティーを飲んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ