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などと考えていたら、あっという間に春が来た。
課長を送り出し、少し心寂しくなりながらも新たな季節を迎えた。
春は人事異動が発表される季節。
まあわたしには無縁だけど、知っておくことは必要だ。
広いフロアにはすでに多くの人が集まっていた。
みんなザワザワと、不安そうな顔をしている。
何かとんでもない人事異動があったんだろうか?
輪の中に入ろうとすると、顔見知りの女性社員がわたしを見つけ、駆け寄ってきた。
「藤壺さん! あなた一体、どうしちゃったの?」
「えっ? 何が?」
「何がじゃないわよ! 見てないの?」
彼女は人事異動の紙を指さす。
「見てない…と言うより、見えない」
わたしの身長は、普通の女性とほぼ同じ。
しかし3メートル先にあり、人の頭と背が邪魔をして、文字は全く見えない。
かろうじて、掲示板に何か紙が張ってあるのが分かるぐらいだ。