新たな階層とスキルの試用
新たな階層、第六階層に行くにあたって気を付けることがある。
この階層から“フィールドボス”と言われる迷宮内を彷徨い動くボスが存在するようになる。
その強さは10階層のボスよりはるかに強く特殊能力を駆使してくる。
その名は“フレームリザード”
と言っても全身が火で覆われているわけではない。
“フレーム”と言う名前はその特殊攻撃に由来する。
この蜥蜴は炎を吐くのだ。
幸い、フィールドボスは一定の道順しか通らない。
その道を避ける、もしくは注意して移動すれば出会う事は無い。
(とは言え、最初の長い一本道が移動ルートに入っているから“初見殺し”と言われてるんだけどね。)
俺はその長い通路(ご丁寧に階段からまっすぐ進むとここに出る。)の前で鏡を使い左右を確認する。
金のある会社ならビデオカメラを使うのだろうが、残念なことにわが社にはそこまでの予算はない。
鏡は溶接検査に使用される伸縮する棒の先に鏡が付いたもので、ダンジョンでは便利な道具である。
(ふむ、こいつを手元で操作できればもっと使えるな。)
実際こんな改造ネタはもっと上の階で考えつく物のはずなのだが、この階まで鏡を使っていなかった、と言うより、持って来ていなかった。
(ちょっと気楽に考えすぎていたな。いかんいかん。)
ダンジョンは死ぬことがある場所なのだ。
簡単にボス部屋を攻略したおかげで気持ちが少し緩んでいるのかもしれない。
(ま、今日はスキルのチェックのために来たのだけどね。)
長い通路の途中にある安全地帯へ向かう。
そこは通路から少し奥に入った小部屋で、モンスターがポップしない。
その代わり部屋の中央に枯れた噴水があり、何らかの仕掛けであると予想されているがまだといた者はいない。
「よし、この部屋でなら試せるな。」
俺は物品探査のスキルを使用した。
対象はこの間のドロップ品の短剣の一本である。
短剣の内一つがダメージに僅かばかりの追加を加えるもので(ダメージに+5%の追加)、魔法の武器では数多く見つけられるものだった。
もう一本は使用者の敏捷を3%ほど上げるものだ。
これも多く見つかるものの一つだが、敏捷が上がる物はあまりないらしく、少しだけ高い。
(ダメージが一万五千円、敏捷が一万七千円)
今、ダメージの短剣を現場事務所にいる兵庫に持たせてある。
(お、大まかな位置のイメージが浮かんできた。)
物品探査を使い短剣をイメージすると頭の中にその位置が浮かんでくる。
それは星を見ているような感覚であった。
(方向は判るが高さや距離が判らないな。)
続いて、スキルを発動したまま敏捷の短剣を思い浮かべる。
こちらの短剣は本社の俺の机に入れて鍵をかけている。
意外なことに、その位置がぼんやりと感じ取れた。
距離が大きく空くと感じ取れるのがぼんやりしてくるのだろう。
スキルの効果が切れるまで色々な対象を思い浮かべる。
いつも見ているアパートのドアも感じ取れる。
だが、兵庫や社長、大家さん(美人)を思い浮かべてもその位置は感じ取れない。
(これは完全に物品のみのスキルだね。)
続いて、分光粉塵を試す。
このスキルは様々な色の粉塵を出せるようだ。
大きさはこの小部屋一杯から、ミリ単位の大きさまで色々コントロールできる。
色の方もコントロールすれば任意の色に出来るようだ。
(この粉塵を頭からかぶったのは収穫だったな。)
大きさを調べるために大きくした時、その効果範囲に自分自身も入ってしまった。
その結果、
目がチカチカとし、まともにもを開けられない状態になった。
つまり、大きさを絞ればモンスターへの目くらましになるという事である。
時間は五分程度と短いが、使えない事は無いだろう。
チカチカしている時に身体強化を掛けたがマシにならなかったところを考えると、思った以上に使えるスキルかもしれない。
(粉塵の特性はどうなんだろう?)
これは本社に帰って工場で色々試した方が良いかもしれない。
俺は急いで部屋を出て現場事務所に向かう。
(明日は本社工場へ直行だな。)