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初めての仲間

 正義のヒーロー。それは、地球を救う選ばれたものたち。なんてものに、子供の頃、男女問わず憧れた人間なんて、きっと少なくない。

 俺はそうだった。特別な存在。強く、弱きを守るために悪と戦う―――そんな大人になりたかった。


 しかしそれは、自由の多い子供だからこそ見ることのできる夢。しかもそれは皮肉にも、幼い頃あんなに夢と期待で輝いていた“大人”となった現在になって気付いてしまう。

 大人になると、まあ、色々あるのだ。色々と。



 突然だが、軽く自己紹介に入る。

 俺は山田ハルト、二十一歳。地球を防衛する、選ばれた戦士だ……一応、そういうことになっている。ジャンルといえば特撮的なヒーローで、イエローの肩書きを背負わせてもらっている。

 勿論、イエローがいるとすればレッドがいて、グリーン、ピンクにブルー……と続くわけだが。



「行くぞ! 悪党ども!」

「……なあ」

「なんだ!」

「ずっと気になってたんだけどよ」

「あ?」

「なんで黄色しかいないの?」

「……仕方ないだろ、俺しかいねえんだもの」



 最近任務の度、怪人と会うとまず、挨拶がわりのようにそんなやりとりをするようになってしまった。


 大人には色々あるんだ。たとえば、家庭。仕事。上司との付き合い。二日酔い。

 明日食っていけるか、家賃、食費や光熱費との戦い。この不景気、地球平和よりも守らねばならない平穏があり、怪人よりも戦わなければならない敵があまりにも多すぎる。

 え、俺はどうなのかって? 俺、フリーターだから。他の社会人よりも自由度がやや高い分、任務に時間を費やせるのだ。



 俺が世界を守っている間、じゃあ他の奴らは何してんのかって、まだ一度も他の仲間に俺は出会ったことがない……。

 仕事が忙しすぎるのか。それともサボりなのか。よくわからないままバイトと戦いの日々を繰り返している。









 とある昼の十時少し前。バイトも何もない平日に指令官の立場に立つお上のオッサンからもらった腕時計型通信機の音に起こされ、布団からもそもそと俺は起き上がる。



「……はい」

『敵幹部、ドゥルジーが現れました。場所は新宿駅です』

「はい」

『ブラック、ホワイトと協力して敵を倒してください』

「……えっ?」



 予期せぬ科白に、俺は半ば寝ぼけた頭からハテナを飛ばし間抜けた声で聞き返した。

 なんだよ、ブラックとホワイトって。いや、いいけど。助かるけどさ。

 レッドブルーピンクとまだ出会ってないのに、飛ばして最初の共闘がブラックとホワイト……?


 一方的に通信が切れる小さな音を聞きながら、俺は寝起きの気だるさを溜め息と共に吐きだした。











 新宿駅へバイクで向かい、その中へ突入しようとしたところでまた通信が入る。



『ブラックが交戦中です。送るので、そのまま移転してください』

「わかりました」



 俺は辺りを見渡して人気のない路地裏へ。

 通信機の横にある黄色いボタンを押し込み、今いる場所からテレポートした。


 テレポート先は、指令曰く、指令基地が高い金を出して作ったバトルフィールド専用の異空間……らしい。


 民間人に危害を及ぼさないよう、まず敵が出現した場所へ赴き、怪人と共にバトルフィールドへ移転してから戦いを始める。というのがいつもの流れだが、

 今回はブラックがそれをやってくれたので上記は省略した。


 バトルフィールドに降り立つなり、俺は通信機の赤いボタンを押し込み、テレビでやっている特撮ヒーローのごとくイエローへと変身する。

 隙だらけじゃないのかと突っ込まれそうだが、変身が終わるまでの時間は本当にあっという間だ。アニメの魔法少女のように、じっくりと時間をかけてお着替えしているわけではないので、そこまでの隙は無い。

 なにより、一般人が見ている中で変身というのは、うん。

 やっぱりもういい大人だし、恥ずかしい。




「ブラック!!」




 スキンヘッドの怪人、ドゥルジーが差し向けた手下たちが、一人戦っているブラックを囲んでいるのを見るや、俺は両手の光線銃を構えて駆け出した。



「加勢しに来たぞ! ブラックー!!」



 光線銃で手下たちをバタバタと打ち倒していく。

 どうだ! 最初は慣れなかった武器だが、日々の戦いでこんなに上達してんだぞ! と、ヘルメットの下の俺は、今実はちょっぴりキリッ!!顔だったりする。



「イエローさん!!」



 敵の数が減り、身動きを取れるようになったブラック。

 男とわかる声でこちらを振り返るなり、



「イエローさーん!!」



 振り返り、両腕を振ってこちらに走ってくる。

 そんな彼の姿を見ながら、俺はふと、彼のヘルメットではない、ある一点に気付いて釘付けになった。


 ……気のせいだろうか。このブラック。



「助かりました! イエローさん」

「……いや」



 近くに来て、俺は気のせいではないと、確信した。


 ああ、このブラック、ヤバい―――。何がやばいって、ヒーロー的にヤバい。




 黒いヒーロースーツのズボンの上に乗り、はみ出しているぜい肉が。




(夢が崩壊するぞこれ……)




 もし俺が子どもだったら、こんなヒーローの腹見たら絶望する。

 自分の親父と同じ腹したヒーローとか、どういう顔していいのかわからないんだけど。




「イエローさん? 大丈夫ですか?」

「……スンマセン。なんでもありません!」




 とはいえ。初対面の人にそんなツッコミをする勇気は俺にはない……。


 テンションの低い俺を心配そうに覗き込んでくるあたり悪い人ではないのかもしれないので、

 愛想笑いで明るく振る舞った。



「ところで。ホワイトはどうしたんです?」

「ホワイトさんはまだ来てないみたいです」

「そうか。よし、ブラック! 一緒にドゥルジーを倒すぞ!!」

「はい!!」



 誰に言われたわけでもないのに、軽く決めポーズなどを各々取りながら怪人に向き合う俺達。

 ヒーロースーツなんて着ていたら、やっぱり無意味にポーズとか取りたくなっちゃう男の中二心。共有できる仲間がいることを嬉しく思いながら、俺はブラックと共に怪人に立ち向かった。









「磯山ゲンです」

「山田ハルトです」



 ドゥルジーを追い払うことで戦いが終わり、焼肉屋で祝勝会。改めて自己紹介をして、俺達は昼からビールを煽る。



「磯山さん、今日仕事は休みですか?」

「ああ。僕漫画家なんです」

「……あー……」

「ペンネームは違う名前なんですけどね」



 なるほど。あの腹回りは不摂生の結果だろうか。

 体調管理とか大変そうだもんなあ……。



「山田さんは何をやってるんですか?」

「恥ずかしながら、フリーターです」

「そっかあ。すみません、山田さんにばかり戦わせてしまって」

「あれ。なんで俺ばっかりって知ってるんです?」

「ドゥルジーが僕見て驚いてました。『イエローの奴、ボッチじゃなかったのか』って」

「……余計な世話だっつの。あのハゲ」



 毒づいて、俺はビールの残りを一気に飲み干した。


 そんな俺に笑いながら磯山さんは、俺用の皿と自分用の皿の上に焼き上がった肉を取り分けた。

 トングを置いて箸を右手に持った後、ふと思い出したような顔で磯山さんは俺を見た。



「そういえば、来ませんでしたね。ホワイトさん」

「間に合わなかったんですかね」

「まあ、忙しい世の中ですからね」

「本当ですね―――」



 そんなときもある。

 正直どんな人か会ってみたかったので残念だが、次回の楽しみということで。


 あまり酒に強くない俺は、他愛ない話を磯山さんと続けながら、ソフトドリンクを店員に頼んだ。










 後日―――バイトを終えて、コンビニ弁当を食べながらネットを満喫していた俺は、

 ヤフーの『今日の話題のツイート』を何気なく左クリックする。



 そこで、俺の目に飛び込んできたツイートは―――



『新宿駅で特撮っぽいコスプレイヤーがすごく焦った声で「ドゥルジーって怪人知ってる?探してるんだけど」と声をかけてきた。待ち合わせに遅れそうだったからすぐ別れたけど、ヒーローはあの後怪人を倒せたのだろうか』



 ……まさか。







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