冴えない男子高校生池島開人
高校生一年の夏、目覚ましが鳴り、歯を磨き、朝飯を食べ、いつものなにも変わらない朝、僕、池島開人は一人学校に向かっていた。『おーい!』という呼び掛けに振り返ると、そこには同じ高校に通う中里拓也がいた。拓也は僕の家から近いところに住んでいて、いわゆる幼馴染みというやつだ。成績優秀スポーツ万能のイケメンという三拍子の揃った拓也が僕みたいな才能のない平凡なやつと仲良くしてくれているのがいまだに不思議でならない。『何か今日元気ないね池ちゃん』と肩を優しく叩いてくる拓也に、僕は『そんな事はないよ』と返事をしたがその表情から拓也は何かを読み取ったかのように『やっぱりな~』とニヤニヤしながら言った。『あの娘の事考えてるだろう~』と拓也は続けて言った。その言葉に、なぜばれたのかと思わず驚いてしまった。
それは昨日の出来事、いつもの学校からの帰り道、家の近くの公園のところまで帰った時だった。ふと何気なく公園の方を見た僕は、同じ高校の制服を着た細身で綺麗髪の女の子がいるのに気が付いた。同じクラスではないのだが、その時なぜだかその子から目が離せなくなっていた。今まで恋などしたことのない自分が感じた事のない感覚で忘れる事のできない出来事であった。その話を拓也にしてしまったのが運の尽き、それ以来僕の様子を見てニヤニヤしながらからかってくるのだった。話をしてしまった事を後悔してうなだれていると、突然拓也が『あの娘の事教えてやろうか?』と言ってきたのだ。
拓也から話では、彼女は本庄咲という名前で、成績優秀、容姿端麗で同じ学年でそこそこ有名だということが分かった。それを聞いて僕は拓也に『そんなに有名なら僕みたいなやつには見向きもしないだろうね…』と落ち込みながら言っていると、『池ちゃん勇気ないもんね~』と拓也に言われてしまい、ますます落ち込むのだった。
その日の学校からの帰り道、彼女を見かけた公園にいってみる事にした。そこそこ大きな公園で、中央には小さな池があった。公園を歩いていると、近くにいた小学生くらいの女の子達が『この公園の池に願い事をすると叶うんだって』と話しているのが聞こえてきて、内心嘘だろうとはわかっていてもなぜだかその時は試したくなってしまった。
公園の中央の池に向かって小石を3つ投げて願い事をするといいと女の子達が言っていたのを思いだし、その通り小石を3つ投げて願い事をしてみた。『同じ学年の本庄咲さんと仲良くなれますように…』と心の中で願った時、耳元で『叶えるまでは離れぬぞ…』と聞こえた気がした。驚いて周りを見回しても誰も居なかった…。
家に帰り、いつも通り過ごして眠りに着いた後、体を揺さぶられ目が覚めた。目覚ましを見るとまだ早い時間で、体を起こそうにも何かが上に乗っているかのように動けない事に気が付いた。何が起こっているのかと困惑していると声が聞こえてきた…『我が見えるのか…そうであったな…ではこうしよう…』。次の瞬間、パチンと音が鳴り目の前に小さな女の子が現れてこう言った…『我は池の神様…イケカミじゃ!』