歩く二宮金次郎像
与太郎が昼食を食べようとパンを持って教室を出ると、ゴツンと硬い感触がぶつかってきた。それは背中に大荷物を背負った石像であった。
「おうふッ、い、痛い」
与太郎は鈍痛が響く肩を押さえ項垂れる。
だが廊下にいる生徒は誰も気にしていない。いつもの昼休みの風景だ。石像以外。
するとお弁当箱を持った緒花が現れる。
「ぶつかってしましましたね」
「緒花、これはまさか」
「そう、学校の七不思議シリーズ第二弾、今この世界は二宮金次郎像が歩くようになりました」
「世界一変しすぎだろ!!」
廊下の端まで行った石像はUターンしてまた歩く。次々と生徒や教師にぶつかって被害は甚大だ。
すると体育教師が現れ、廊下の真ん中で説教を始め、背中に背負っていた荷物を没収していった。
「えッ? そっち」
「ほら、うちの高校バイト禁止ですから」
「バイトなのあれ?」
しかし金次郎像は、手に持ったモノを眺めながら歩き出す。
「歩くのやめりゃいいのに」
「“歩く”二宮金次郎像ですから」
再び与太郎の前を通った金次郎像の手には、本ではなくスマートフォンがあった。
「まさかの歩きスマホ。流行りは抑えてるな石像のくせに」
「GO的なゲームでもしてるんじゃ無いんですか? ……あの荷物の中身分かりました。いろんな人のスマホ預かってゲームの歩数稼いでるんですよ、それでお金稼いでたんですよ」
「せめて校庭歩きゃいいのに」
緒花は与太郎の服の袖を引っ張って、
「ところで与太郎くん、GO的なゲームしてます?」
「ダウンロードしたけど、あんまりして無いな」
「私まだやったこと無いです。教えてくれませんか? 今度、一緒に出かけましょう?」
「いや遠慮するよ、危ないからね。あ、金次郎の奴窓から落ちた」
「そうですか、残念です」
「ん、緒花に怪我させらん無いからね」
「……もう。お昼ご飯、早く食べましょう?」