異世界
与太郎が自宅のリビングでテレビを見ていると、行方不明者についての報道がされていた。
「最近多いな、こういうの…… 異世界でも行ってんのかな」
すると突然ベランダの窓が開き緒花が現れ、
「気づいてしまいましたね」
「前も思ったけどちゃんと玄関から入ってきたら?」
「……」
緒花は黙って窓を閉め、与太郎の視界から消える。するとインターフォンが鳴る。
扉を開けると、少し顔を赤らめた緒花がいた。
「ご機嫌よう与太郎くん。どうやら今、異世界転移できるよう一変してしまったようです」
「いらっしゃい緒花。世界一変しすぎだろ」
そして二人はリビングに戻ると、
「今では毎日何万人もの健全な青少年が、異世界でチート能力を得てハーレムを作って一国の興廃をかけた戦いに身を投じています」
「異世界かあ、いいなぁ」
与太郎は目を瞑って剣と魔法の世界に想いを馳せる。
すると、緒花は慌てて、
「ダメですよ。残された人のこと考えて! いきなり人が消えたらどれだけ心配するか」
「ふむ、残された家族からしたら行方不明しか思えないか」
「そう、だから転移ダメ転生もダメ」
緒花は拗ねたように頬を膨らませる。
「……ああ、うん分かった。ところで、元の世界で落ちぶれているのに、異世界に行くとどうして活躍できるのだろう」
「それは違いますよ与太郎くん。何万人かの内成功するのは極一部で、ほとんど全ては転移して数日の内に命を落とすの」
「いきなり中世っぽい世界に行っても生きていくの大変そうだよな」
「そう、だから勝手にいなくなっちゃヤダ」
「いやでもこの世界で生きててもなあ、結局この作品、俺らが何かする事少ないじゃ無い? 登場人物二人だよ? この先バトル展開もなくダラダラ続くんでしょ? この作品」
「そんな事ありませんよ、できる事はあります」
「例えば?」
「それは…… 秘密」
緒花は黙って唇に指を当てニコリと微笑む。
「まさかのオチなし?」
「もう…… 知らないッ」
緒花はそっぽを向いてそう言った。