桃太郎
ある日の帰り道、与太郎と緒花が街を流れる川にかかっている橋を渡っていると、上流からどんぶらこっこ、どんぶらこっこと一つの大きな桃が流れてきた。
「見つけてしまいましたね」
「これは…… まさか」
「はい、世界は文学のキャラクターが登場するように一変しました! 桃太郎編!」
「世界一変しすぎだろ!」
「あれを見てください」
緒花が指差す先にはお婆さんが川で洗濯していた。そのすぐ後ろにはブルーシートで出来た小屋がある。
「あの小屋で暮らしてるって事?」
「彼らの生活をこの時代で再現すると致し方ないかと。川で洗濯って、ホームレスでもしないですよ」
お婆さんは必死の形相で川に飛び込む。なんとか川岸まで桃を寄せるが、相当重いようで中々水揚げ出来ない。
すると丁度お爺さんが帰ってきた。
「リアカー引いてるよ」
「街へ缶拾いに行ってたんですかね」
「世知辛いなあ」
お爺さんとお婆さん協力して岸にあげると、切り分けることなく、すぐさま一心不乱に食らいついた。
「お腹空いてたんかなぁ、あれ? 桃太郎が出てこない」
「本来のお話だと、桃を食べた二人が元気ハツラツになって、その勢いで子作りして出来たのが桃太郎らしいです。」
「頭の中が桃色状態になると」
するとポンと手を叩いた緒花は、少し頬を赤く染めモジモジとしながら、
「与太郎くん折角ですから少し分けてもらいましょうか? なんか急に食べたくなりました…… 他意はありませんよ? ええありませんとも」
「それはやめておいた方が良いよ」
「ええッ!? なんですかぁ」
「だってほら」
指差してお爺さんとお婆さんを見るように促す。
二人は腹を抱えて、死にそうな表情で悶絶し、川原をバタバタとのたうち回っていた。
「川の水に浸かってたんだもの、傷んでるだろうよ。ああもう、お尻の辺りが見てられない状態に…… でもあの後二人はヤることやるんだよな」
緒花は口元を押さえ与太郎の背中に隠れる。
それくらいお爺さんとお婆さんの下半身は大変な事になっている。
「うう、実はあの二人変態さんだったんですね」
「作品の見る目、変わっちゃうなあ……」