増える階段
与太郎は緒花と学校の屋上で一緒に昼食を食べた後、とある階段に来ていた。
「見てください与太郎くん、これが“増える階段”です」
「ああ、うん。増えるの?」
「はい、確かにさっき増えました。見てて下さい」
緒花は下り階段に足をかけると、
「ひとつ」
足を運ぶ度に数えながら降りてゆく。そして一番下の段に乗ると、
「十二、です」
そしてぴょんと可愛く跳ね、踊り場に降りる。僅かに翻るスカートがあざとい。
くるり振り向くと彼女と目があうニコリと微笑むのがまたあざとい。
そしてまた緒花は階段に足をかけると、
「ひとつ」
足を運ぶ度に数えながら登ってゆく、そして与太郎と同じフロアに来ると、
「十三。どうですか? 増えてますよ? 今、階段の数が不安定な世界になってしまいました。学校の七不思議シリーズ、増える階段編ですよ」
彼女は得意げにそう言った。
それだけに、それを指摘するのは心苦しかった。だが、言わないで後悔するより、言って後悔した方が良いと自分に言い聞かせた。
「ああ…… うん、どう言えば良いのか…… 緒花、僕らがいるフロアと、踊り場、そして階段が一二段あってね」
「はい」
緒花はキョトンと首を傾げ頷く
「君は降りる時、階段だけカウントしたよね?」
「はい、増える階段ですから」
「で、登る時は、階段とフロアの段もカウントしたよね?」
「……はい」
「という事は、階段の十二段とフロアの一段を合わせると?」
「……十三段です」
カアぁっと真っ赤になった顔を押さえた緒花はその場にしゃがみ込んで悶える。
「ううぅ、恥ずかしい」
与太郎は彼女の肩をポンと叩き、
「世界一変してません」