男友達
与太郎は夕陽を眺めながら河原で黄昏ている。
その瞳には哀愁が漂っていた。
「はあ」
「元気ありませんね」
「……なんだ、緒花か」
いつものように緒花は突然現れたが、与太郎は変わらず黄昏た。
その様子にさすがの緒花も心配そうな顔になる。
「どうかしたんですか?」
「いや…… 実はここだけの話、友達いないんだよね」
「主人公の友達なんて重要なキャラクター、居たらとっくに登場してますもんね」
「欲しいなぁ男友達。一緒にスポーツして汗を流したり、行き当たりばったりに街歩いたり、殴り合いのケンカとかして友情を深めるんだろうなあ。はあぁぁ〜」
深々と溜息を吐いて与太郎はゴロ〜ンと河原に寝転がる。
そのまましばらく惚けていると、いつの間か緒花の姿も無くなっていた。
夕陽も沈み、辺りが暗くなってくると夜風が身に染みた。
「帰ろ」
「ちょっと待ちぃや兄ちゃん」
与太郎が立ち上がり振り返ると、そこには学ランを着た人影がいた。
ブカブカの学ランで体格はよく分からない。高い下駄を履いているせいか身長もよく分からない。男にしては高めの声色。目深に被った学帽のせいで顔は伺えない。
与太郎には、それが男装した女の子にしか見えなかった。
「君は?」
「ワシは…… 源三、新キャラじゃけぇ。今この世界は新キャラ登場するよう一変したんじゃぁッ!! 男友達編ッ!」
「……へえ、そーなんだ気がつかなかった」
緒花がまた変な事始めたなぁと考えた与太郎は、呆れる半面この気遣いを無下にはしたくなかった。
「今回はワシも含めて三人劇じゃけぇ、よろしゅうなぁ。時間もあまりないけん。そこらへんぶらぶらしよか」
「ああ、おは…… いいや、源三」
それから二人は商店街で買い食いをしたり、ゲーム屋に寄ったり、カラオケで喉を鳴らしたりして過ごした。
その時与太郎は確かに感じた。これが男同士の友情、その一端なのだと。
ふと、時計を確認するともう九時を回っていた。
「もうこんな時間か、帰らなきゃ」
「楽しい時間は一瞬じゃけぇ、しゃーなしや」
「なんか気を使わせて悪かったな。明日からはまた普通に……」
「与太郎くーん」
「は?」
遠くから手をブンブン振りながら緒花が駆け寄ってくる。
「はあ、はあ、ふう、聞いてくださいッ。さっきからこの世界は、新キャラが登場するよう一変してしまっ…… あら? もう出会ってましたか」
深々と腰を折った緒花はいつもより丁寧な口調で、
「お初にお目に掛かります。私、緒花と申します。与太郎くんがお世話になっております」
「これはこれはご丁寧にどうも。ワシは源三いいます」
与太郎はそんな二人を冷や汗をかきながら見比べる。
「……世界一変しすぎだろぉぉぉッッッ!!!」