ボクシング
与太郎は緒花に誘われてボクシングを観に来ていた。
「へえボクシングって一日に何試合もするんですね」
「最初は、ヘビー級の試合か」
「ほら選手が出て来ましたよ」
そこにはニョロニョロと這い回る大蛇の姿が二つあった。二頭ともステップを登りリングに上がる。
「緒花、これは……」
「いつものアレが起こってしまったようです。どうやら今、この世界はボクサーは階級に準じた姿になってしまうようです」
「世界一変しすぎだろ。蛇ぃ級って、厳しいなぁ」
ゴングが鳴ると二頭の大蛇はグルグルとリングを回る。だが当然殴り合いになどならない。
「これが本当の手も足も出ない、と?」
「上手くないなあ」
結局レフリーが試合に止めて、没収試合となった。
それでも一変した世界ではそんな事誰も気にしない。
「さて次は何が出てくるんでしょう……」
「お前は気にしろよ」
「次はバンタム級です」
するとやはり人間ではなく翼の先にグローブをつけたチャボが登場する。
レフリーは気にせず、そのまま試合を開始した。二羽のチャボは、グルグルとリングの中を回る。たまにバサバサと翼を羽ばたかせる。グローブの重さに耐えかねたのか二羽とも翼がボキリと折れる。
すぐさまゴングが鳴り試合が終わる。
「鳥って骨が脆いそうですよ」
「これもうダメだろ」
「最後は…… クルーザー級?」
ゾッとした与太郎は緒花の手を引いて一目散に会場から逃げ出す。
ガラガラとコンクリートが崩れる音と洪水を思わせる水音が会場を飲み込んだ。