恋の落とし穴
世界は一変した。
とある科学者の実験がなんやかんや失敗して、それが世界の物理法則になんやかんや影響して、世界は不可思議な出来事が起こっては消える。不安定な状態に成ってしまった。
だが、多くの人類は世界が一変した事を認識できない。認識出来るのは極々わずかな人類のみだ。
そんな一握りの一人、与太郎は高校二年生である。学校に向かって朝の街を歩いていると道端に大きな穴が空いていた。
人々はそれを避けるように歩いて行く。
「なんだこれ?」
「見つかってしまいましたね」
穴の中から女の子の声がする。
恐る恐る覗き込むと、深さは三メートルくらい、中は薄暗く、構造はよく分からないが、底には一人の女の子が体育座りをしていた。
彼女は俯き下を向いたまま話を続ける。
「これは“恋の落とし穴”です」
「は?」
「穴の中にいる状態で、誰かと視線を交わすとその人の事を好きになってしまう。そう言うモノ」
「ああだから、下を向いたままなのか…… 世界一変しすぎだろッ!!」
とりあえずツッコミをいれた後、与太郎は地面に横になって、穴の中に手を伸ばす。
「そのままってわけにはいかないだろう。ホラ、捕まって」
「ダメです、このままじゃ貴方の事好きになってしまいます」
「女の子をこんなところに放って置けないよ、目が合わなければいいんだろ?」
与太郎は眼をぎゅうッと瞑る。
「……それじゃあ」
ひんやりと冷たい、スベスベとした細い指が絡まると、に力を込めグッと引っぱる。
穴の壁には取っ掛かりが無いようで、彼女は上手く踏ん張れず、バタバタと脚を動かしながら、与太郎の身体しがみつく。
やっとこさ彼女を引き上げると、二人はゼィゼィ肩で息をしていた。
彼女はボサボサになった長い黒髪を手櫛で整える。運動したせいか顔は真っ赤になっていた。見覚えのあるブレザーは、与太郎の通う高校と同じの物だ。
「……ありがとう御座います、私の名前は緒花、あなたは?」
「俺は与太郎。でも良かった、助けられて。恋の落とし穴なんて変なモンのせいで誰かを好きになったら、可哀想すぎる」
「いいえ、恋の落とし穴の影響は確かにありました」
「え?」
緒花がニコリと微笑むと、口元にえくぼができた。