主人公の真実
九部
暗転した後、俺は見渡す限りの漆黒の空間にいた....。
平衡感覚や触覚まるでない、五感が働かない....海の中に沈んでいるような感覚だ....。
「ここは....?」
疑問に思い、必死に目を閉じ思い返そうとする、微かな記憶が蘇り始めた....。たしか、あの時ソレの攻撃を受けたはず....。
というと....?俺は死んだのか?この空間はまさか地獄なのか?
ここに来てまだ2日目だぞ?やり直したことあるんだよ....少なからずここでは死にたくない....と強く胸に思いを刻むと同時になぞのこえが響いた....。
「このままで終わる気か?嗜好の存在が呆れて泣くぞ?」
男性の声だ....聞き覚えはない....だがしかし、俺はその声を知っているような気がしてならない....しかもすぐ側にいるような....。
目を開けるとそこに広がっていた空間は消えていた....。
目の前に新たに広がる光景に息を飲んだ....。
目の前に広がるのはまるで天国と言われてもバレないほどの神々しさを放っている....。
石畳の純白の道、ずらりと並ぶ古代ヨーロッパを連想させる建物達、空に浮かんでいる白い装飾品達、白を貴重としたソコはどこを見ても眩しく感じてならない....。
ふと視線を後ろから感じたので振り返った。そこにはブロンドの髪の蒼い目をした綺麗な男性と紅髪の髪の黄金の目をした美しい男性が立っていた....。一目見て人間ではないことは気づいた....。
「あなた達は誰なんだ?」
そう聞くと彼らは笑った。
「俺らが誰だって....忘れたのか?」
「そうだよ....僕達の息子だよ」
息子?ありえない....何をいってるんだ!!二人の言葉に反論した。
「息子?俺の親は二人だけだ!!」
すると、二人はクスリと微笑んだ。
「ふふっまあ覚えてないのは仕方がないか....君はまだ赤ん坊だったからね」
「しかも俺たちが人間に何かしらの改造をしたとなると問題になるから記憶改竄をしたんだ....。」
「そうなんだ、まぁ僕から自己紹介をしておくよ、僕の名前はミカエル、セラフのリーダーだ。以後お見知りおきを。」
「俺は冥界を仕切っている魔族の王サタンだ、覚えておけ....。」
二人に説明をされたが俺は訳が分からず頭を抱えた。
俺があいつらの息子だと?事実上不可能なこの現実を突きつけられ焦燥感にかられた。しかも何故敵対している悪魔と天使がここにいるんだ....?
「なぜ悪魔と天使がここにいる?しかも息子とはどういうことだ?」
聞くと二人は呆れたように答えた。
「我ながら俺の息子は....と思ったんだがな....」
紅髪の男性はため息混じりに俺の事を蔑んだ
「まぁでも仕方ないでしょ?人間での思考なんだからここが限界だよ」
サタンの言葉に対しミカエルは苦笑混じりに答えた。
「じゃあ簡単に説明するよ。僕達がここにいるのは今は協力体制だからなんだ。悪魔と天使の新たな生存方法を得るために協力している。ここは天使の幹部しか入れない天界の最新部で、そこに悪魔の王が入れるのはそのせいなんだ。」
「俺からは何故俺達の息子かについて話そう。ミカエルの言った通り俺たちは新な生存本能を欲している、過去の大戦で両者の大半を失ってしまった。今はそのようなことはないがただでさえ悪魔や天使の純粋な同種交配は子が出来る確率が非常に低い。その時俺たちが議論して出したのが、人間に我らの膨大な魔力を宿した血を人間の赤子に投与すれば悪魔、天使どちらにでも適応するのではないかと....もちろんそれは禁断の行為だ....。神が作った物に勝手に手を加えることはタブーとされている。だがしかし事は一刻を争う....そんな中、唯一元から膨大な魔力を秘めた赤子を見つけた....それが君だ。」
サタンは俺を指差す。
「何故俺なんだ?」
「俺達のような強大な魔力=血を人間に流すとき魔力を持っていないと壊れて意味がなくなってしまう。お前はそれを受け入れられる器があった。だからお前を俺達の子にした。」
俺は今まで積み上げてきた理論が打ち砕かれる音が聞こえた。現実を現実と受け入れられない自分に腹が立つのを押さえ込み懸命に理解しようとする。
別にさほど頭がよくない者なら信じられるだろうが頭がよくなればなるほど理論で考えてしまう。その最高が雛斗なのだ....。
滲み出る負の感情を自制しながら目的を聞いた。
「お前達の目的はなんだ?」
二人は顔を見合わせ笑った。
「なにがおかしい?」
「おかしいよ!!僕達はただ君にはこの世界で楽しんで欲しいだけだよ」
「別に俺達の監視下に入れと言うわけではない....、ただ俺達にも人間の母性愛と言うものを知りたいからな。」
まだ混乱しているとミカエルは思い出したように目を見開いた。
「あ、そうか!!何故か君の態度や思考レベルが低いと思ったら魔力の副作用なのか」
ミカエルの言葉に納得がいったようにサタンが頷く
「なるほど、魔力の逆流による感情の起伏が激しくなるのか。そのせいで思考力、判断力、動体視力全てにおいて下がっていたのか....。」
そう言うと彼は謎の言葉を発しながら手を横に薙いだ。
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すると感情の制御がきくようになり、物事を受け入れて考えることも出来るようになった。
その突然の変化に驚いているとミカエルが説明をしてきた。
「それは第八階層の上位高等魔法だ。俺達のような存在だけが扱える魔法だ。簡単に言えば精神支配に似ている。」
「それで治っただろう....?」
「あぁすまない」
先程より断然に吸収が良くなっている。
「まぁ、そろそろ時間だ....。」
「時間?」
「まだ記憶が曖昧か....さっき君は下級の魔人に魔法を飛ばされたんだ。」
「無意識の内に俺達をここに呼び出した....。」
「君は僕達の子....。天と冥を支配する者の子だよ?負けるはずがないだろ?」
「心に念じろ、全てを本能に委ねろそうすれば強大な魔法はお前のものだ。教わらなくてもお前なら意図も容易いだろう。」
「おい!!まだ話が!!」
少しずつ消えていく二人の姿に不満をぶつける。見れば俺の体も消えつつある....。手を伸ばすと同時にミカエルが悪戯っぽく呟いた....
「そういえばまだ話してなかったけど、天使と悪魔合わせて君の親は....8人いるからね」
「ま、まて!!ふざける-----
俺のむなしい叫びは虚空に溶けるように消えていった。
ミカエル....次あったら殺すからな....そう胸に誓うのであった....




