表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

プロローグ

 1

 

 まさか、とは日常よく耳にする台詞だがその実“意外”というのはずいぶん自分勝手な感情だ。

人は変わる。意図的な変化だけでなく、成長だとか老いだとかで絶え間なく変わっていくものなのだ。

だから“意外”なことは意外ではない。そう嘯いていたのは、信じがたいが俺だった。

 「もしもし、(しん)?聞こえてる?」

オレンジ色の柔らかい光が満ちた、見慣れたいつも通りの部屋で俺は驚きに身を固めた。意外という感覚をひしひしと感じていた。

「真、ちょっと、応えて真」

耳元の携帯電話から聞こえるのもよく見知った友人の声だ。五年間それなりの時間を共に過ごしてきた唯一無二の友達、(さと)の声が少し苛立ちながら俺の名前を呼んでいる。

「お、おう、悪い智。まさか電話が掛ってくるとは、しかもお前から」

慌てて応えると、智が意地悪い笑みを浮かべる様が目に浮かんだ。認めたくはないがそれで驚きは狼狽に変わらずにすんだようだった。

「あぁ、真、友達いないもんね。可哀想に」

智の嘆息がノイズになって漏れる。相変わらずの軽口もマイク越しでは、何処か違和感が拭えない。

「お前それ、自虐に繋がること分かってないのか」

「自分で選んだ結果だよ」

言ってみると、智の方もいつも通り強がった言葉を返す。素直になれないのは、悔しいがお互い様だ。

「で、何の用だよ」

俺も智も話が長引くのは苦手だ。慣れない電話なら尚更、さっさと切り上げてしまいたい。

「レポート、やろう。明日、うちで」

少し間を置いて智が言う。俺も丁度、ゼミで出された課題の提出期限が迫っていて焦りだしていたから断る理由はなかった。

「いいぜ。あ、もしかしてお前、最近忙しかったのか」

「あぁ、うん。ここ一週間ほどちょっとばたばたしててね。そういえばお昼一緒に食べれてなかったっけ?」

「良いよ、約束してるわけじゃないし」

智と一緒に昼食を摂るのは高校時代から続く習慣で、同じ大学の違う学部に進学した今でもほぼ続いている。

ほぼ、というのは学部が違えば当然時間割は全く違うので、どちらかの都合でキャンセルされることもままあるからだ。

「そう、なら良かった。実は、一人で食べさせて申し訳ないな、と思ってたんだよね」

「お前以外にも一緒に飯食う友達いるかもしれないだろう」

智の謝罪が皮肉めいていて、むきになって言い返してから墓穴を掘ったことに気付いた。智の小さな笑い声が漏れ聞こえる。

さっきの仕返しのつもりらしかった。

「……、んん。そんな事より、そうだ、お前なんで俺のレポートの提出、期限近いこと知ってるんだ」

俺が苦し紛れに吐き出したのは些細な疑問だ。レポートを出されたのは五日ほど前だったはずだ。ちょうど智の顔を見なくなってからだった。

智は圧し殺した笑いを吹き出した。

「っはは、あの教授、学部棟の前の掲示板に、毎回期限を張り出してるんだよ。知らなかった?」

笑い混じりの声で智が応えた。心底可笑しそうに笑う智は久しぶりだと思うと、デリカシーのなさには目を瞑れた。

「あんなに目のつくところに?全然気付かなかったな」

「ま、じゃあそういうことで。明日昼ごろ家に来て」

「あ、おう」

智は言うだけ言って俺の返事もろくに聞かず、ブチっと電話を切った。

何の前触れもなく鳴った電話に戸惑ったが終わってみるとあっけない。なにより別れ際が至極智らしいもので少し安心した

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ