第一話 舞踏会
招かれた舞踏会というのは、豪華絢爛だが、どこか退屈なものだった。
人生でこんな華やかな場所は踏むまい、と思っていた剣士の僕にとって――その空間は夢を見るようだったし、どこか退屈にも思えてしまった。父の『名代』という資格を軽く見たのではない。
むしろ重すぎるくらい、年少の僕には重くのしかかるものだった。父が都合によって来場できず、かわりに、その家の次代当主である僕が出席することになったのだ。
「…………はぁ。なんとも、肩身狭い」
アストレアの紳士を自負する僕は、会場の片隅で肩を落としていた。
賑やかすぎる装飾や、高価な明かりというのはどこか空々しい。
貴族の嗜みとして、『社交の場』というものがある。仮面舞踏会や、王宮でのお祭りなどがそれに当たるのだが、庶民ではできない娯楽を楽しもうとする風潮がある。僕はそれに父の代わりに出席し、父の顔見知りに挨拶している。
自分より一世代上というのは、知り合いがいないということでもある。士官学校の同期も見なかったし、年の近い友人もいない。
…………こうなると、今まで社交界に顔を出さなかった自分が、すこし間抜けに思えてしまう。
招いたのは『フロウド老人』という辺境の領主。
近頃は宝石商売で山を当て、市議会にも顔を出して発言権を握っている。そんな老人の招きだからこそ、関係各所も断れないらしい。
……まあ、もともと。
こういう社交の場が好きな人も、いるよな。
「おや、ミヤベのお坊ちゃん」
「……は、はは。お世話になってます」
――二世というのは、なんて肩身が狭いのだろう。
僕は豪華絢爛。洋燈も飾りも珍しいモノばかりで築き上げた、フロウド侯爵の屋敷で挨拶をしていた。
僕に踊りなんてできない。
よって、立食の席に陣取るしかない。
そうすると、目につくのは『財界の友人』や、『交流を広めようとする』といった大人たちの浮ついた世間話ばかりだった。中には僕の存在に目を向け、腰の赤い刀――愛刀《鞍馬》に興味を示し、「おや、彼は?」「ああ、あの教官。剣鬼のご子息ですよ」という好奇の視線が飛んでくる。
父親の名前はかなり有名だったので、自然、僕の武勇に対しても噂話が集まる。そんな中で過ごすというのも、針のむしろに座るように居心地が悪いものだ。
もういい加減、愛想笑いの挨拶に疲れたところで、
「ミヤベのお坊ちゃん。躍りませんか?」
「――え、ええ。もう、食事も踊りもお腹いっぱいになっちゃって」
「まあ。そういうことですのね。未来の剣神様のご子息には、すでに可愛らしいガールフレンドがいらっしゃるのね」
「……へ?」
僕が疲れ切った目をして『大人のふり』をしていると、不意に後ろに目が向けられる。振り返ることになった。
そこには、相変わらず白のドレス。頭に飾り用の帽子を乗っけた、社交の場に相応しい衣装を着た『オリゼ』が、さも連れです、と言わんばかりに僕の服の裾を(いつの間にか)握って、ついてきていた。
「…………、へ?」
僕は、もう一度言った。




