第四話 憂鬱な本の虫
「…………なによ」
ぶすっ。とした表情で。
後刻。『変人通り』の店先を訪ねた僕に、オリゼが顔の半分だけ出して扉越しに出迎える。パリオットとはすでに別れていて、今は別の『連れ』が後ろにいた。
「やあ、オリゼ。久しぶり」
「そうね。正確には、三日と十三時間ぶりね。あなたが三度目の『寝ぼけて本を汚した事件』を謝罪にきたあと、次に新しい本を三つプレゼントすると誓って、帰ってもらって以来ね」
「なんだ。まだ怒っているのか」
「それなりに、ね。私だって本は貴重な財産だもの」
チラ。と。
言いつつも、僕の背後に立つ『依頼人』の姿が気になるらしく瞳を向けていた。僕との付き合いもやや長くなる。こんな不意のタイミングで尋ねてきた僕と、その表情を見て、何か感じるところはあったのだろう。
オリゼは、まだ警戒するように、小動物の顔で扉に半分隠れている。
「ほら。そんなご機嫌ナナメなきみに、うちの家人たちが噂していた評判のうさぎさんクッキーだよ。交易通りの屋台で買ったんだ」
「…………。子供扱いして」
「いらないのかい?」
「……。いる」
不満そうに。しかし、断りもせず。オリゼはしぶしぶ、といった表情で扉のチェーンを外した。
「…………入って。どうせ、なにか困り事があるんでしょ?」
「察しがよくて助かるよ」
僕たちは、店内に入った。




