第三話 踊り子
「あ、あのう……」
と。舞台のそで。
僕らが砕け散った瓦礫や、鉄骨をブーツで踏みながら現場検証。騎乗警官に職務質問を受け、被害の様相や、その時の状況を話しながら――改めて散らかった現場を見ていると、一人の少女が声をかけてきた。
舞台の袖のカーテン。そこから民族衣装の半分を出して、隠れていたらしい薄着の少女が顔を見せてきた。
「あの。助けてもらって、ありがとうございます……」
「?」
僕とパリオットは、顔を見合わせた。
助けてもらって……? という単語が意識の気を引いた。つまり、この女の子は、なにかに襲われていた、もしくは、危機的状況にあったということになる。それが意味するところは。
「アタシは、ここのサーカスを率いるカーチェフ……。エデン・カーチェフです」
「ど、どうも」
「さっきの男は、アタシたちのサーカスを狙う悪党……私たちの国の言葉で、『グルグ』と呼ばれる祟り者なんです」
「? グルグ……?」
耳慣れない響きに、小首を傾ける。
そんな言葉、アストレア国には伝来していなかった。つまり外の異郷――サーカスとともに渡り歩いてきた、彼女たちと共にある言葉ということだ。それぞれの土地には文化圏があり、言語は文化を象徴する。
「アストレア国の剣士さまたち。お願いがあります」
「なんだよ? 一体」
美少女の願い。
しかし、質問を口にしたパリオットは普段の粗野な剣士像とは違い、わりと慎重に彼女の動向を窺っていた。当たり前だ、士官学校の優等生である。『女惑い』という言葉もあるように、女性は剣を弱らせる要素の一つ。『錆』に数えられる。
この場合は――〝襲う側〟の手練れもそうだが。
そんな人物に、付け狙われる側の〝相手〟にも原因がある――そう考えるのが妥当だった。
「できましたら。どうか。アタシたちに力を貸してください……!」
潤んだ瞳。祈るように手を合わせている。他の踊り子たちも出てきて、舞台の大道芸人たちも、そんな閑散としたテントの中で集まってきていた。
僕とパリオットは、再び、互いに顔を見合わせた。




