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押し売りごり~

おーほほほほほほほ

「本当に結構ですから、うち間に合ってますから!」

「違いますよ! 僕は別に押し売りするつもりできたわけじゃなくて!」

「押し売りする人はみんなそう言うんです!」

「違いますって信じてください!」



押し売りごり~



 事の発端は日曜の昼にインターホンが鳴ったことだった。

「はーい!」

 私は玄関の扉の向こうに聞こえるように返事をしながら、ガチャリと扉を開ける。

 そこにはあまり背の高くない、若い青年が立っていた。

「あ、奥さんですよね?」

 青年はにっこりと笑いながら、私に会釈する。

「はい、そうですけど」

 私は扉を開いたまま頷くと、青年は肩から下げていたバッグの中をごそごそと探って、何か変な物体を取り出した。

「これなんですけど……」

「なんですかこれ」

 それはペットボトルのキャップ付近の部分と、底の部分を切り取って、それぞれ回りに六つの羽を斜めにつけた、細い鉄の棒で真ん中を二つまとめて串刺しにされている物体だった。

 キャップ付近の部分は鉄の棒の先端に付けられていて、それとあまり間隔のなく直線上にある底の部分のすぐ近くから、棒が直角に折れている。

「これは風車ですよ」

「風車ぁ?」

 なるほど、確かに言われてみれば風車だ。よく見かけるペットボトル風車みたいだ。なんだか子どもの工作のようだった。

「そうです、見てください。結構出来はいいと思うんですよ。特にこの羽なんか上手にできていると自負したいくらいです」

「は、はぁ……」

 青年はまるで子どものように、自分で作ったらしい風車の出来を、私に説明した。

「でですね、それで━━━━」

「あ、あの、風車がどうかしたんですか?」

 私は段々説明の長さに堪えられなくなって、話題を変えるために青年に尋ねた。

「あ、これをですね。受け取っていただけたらと」

 青年は出来の悪い風車を私に嬉しそうに差し出す。

「え、いや、いりませんけど」

 夏のはずなのに、冬のような冷たい風が吹いた気がした。

 そりゃ、あれだけ出来に自信を持っていたのに、受けとるのを拒否されたら驚くだろう。

 しかし、彼は多分この風車を売りに来たのだ。こんな訳のわからない代物に金をかけたくない。

「あ、いや、押し売りとかではなくてですね。とにかく受け取っていただけたらなと」

「い、いえ、うちは結構ですから」

 一歩近づいて私に風車を押し付けようとする青年に、私は迷惑だというように顔をしかめながら断った。

 当然だ。

 ここで受け取ってしまったら、今度はこのへんてこな風車を青年が売りに来るだろう。

 いや、風車じゃないとしても、押し売りに来られるのは迷惑だ。

 私は「では……」と言うと、扉を閉めようとする。

 こういう業者にはこれが一番効く方法だった。

「待ってください!」

 ガッといきなり青年が扉を掴んだ。

 私はびっくりして、扉から手を離してしまう。

「お願いです! どうか、受け取ってください!」

 青年はそう言いつつ、扉を無理矢理開けようとする。

 私も負けじと扉を両手で掴むと、全力で閉めようとした。

「本当に結構ですから、うち間に合ってますから!」

「違いますよ! 僕は別に押し売りするつもりできたわけじゃなくて!」

「押し売りする人はみんなそう言うんです!」

「違いますって信じてください!」

「だいたい、誰がそんな小学校の図工の時間に作ったような風車を受け取るって言うんですか! そんなの私でも作れますよ!」

「はぁ!? なんで風車を罵倒されなくちゃなんないんですか! いいから受け取れ!」

「やめて離してください! ペットボトルを切り取って羽をくっつけただけの風車を押し付けないで!」

「あぁ!? もう頭にきたぞ! お前表に出ろ!」

「ここはほとんど表じゃない! 助けて、あなたー!」

 私は家の奥にいる夫に向かって、助けを求める。

 ドタドタと足音をたてて、玄関まで夫がやって来た。

「どうかしたのか? って何やってんだあんた!」

 夫は青年に近づいて、扉を掴む手を引き剥がそうとした。

「いい加減にしろ! 警察を呼ぶぞって近藤さん!?」

 え?

 夫は手を止める。

 私は夫の言葉に、再び扉から手を離してしまった。

「良かった! いたんですか!」

 青年は嬉しそうに顔を輝かせる。

 え? なに、え?

「知り合いなの?」

 私は恐る恐る夫に尋ねた。

「ああ、会社で同じの近藤さん。というか何やってんだよ。あ、近藤さん、風車持ってきてくれたんですね!」

「そうなんですよ! この前約束しましたからね!」

 つまり、私は……。

 頭をフル回転させる。

 夫の会社の友人のことを押し売りと勘違いしてしまった。

 そして、夫が約束していた風車を作って持ってきてもらうという、その風車に対して、私は……。

「でも、自分自身出来は良かったと思ったんですけどね。その、こんなペットボトルを切り取って羽くっつけただけの、小学校の図工の時間に作ったような、へんてこな風車なので、もう一度作り直してきます」

 近藤さーん!

 あああぁぁぁ~……。

 私は夫の友人になんてことを……。

 このままだと私たち、このことで離婚になってしまうかもしれない!

 まだこの家買ったばっかりだからローンを払い終えてないし、この歳でバツイチなんて嫌だし、それに子どもだって欲しいもの。

 私はこんなところで立ち止まっていられないのー!

「そんなことありませんよ近藤さん! とっても素晴らしい風車ですよ! とくにこの部分なんか━━━━」

「小学生にも作れますね……」

 近藤さんがボソッと呟いた。

 私は痛いところを突かれて、うっと声を出してしまう。

「それでもここの部分なんか━━━━」

「ペットボトルを切り取って羽をくっつけただけですよね」

「そんなことありませんよ! 言い表せないほど━━━━」

「へんてこな風車ですよね」

 近藤さんの態度に私は段々イライラしてきた。

 確かに私は失礼なことを言った。

 だけど、近藤さんがさっさと誤解を解けばこんなことにならなかったんじゃないか?

 それを私だけが悪いように……。

 私の中で怒りがこみ上げてくる。

「ねちねちねちねち根にもって! 度量の狭い男ですね!」

「あぁ!? あんたが俺の力作を馬鹿にしたからだろ!」

「そもそもさっさと誤解を解いておけば変なことにならなかったじゃない!」

「あんたが風車を拒否したからだろ!」

「あんな渡しかたされたら誰だって押し売りに間違えるでしょ!」

「お、おいやめろよこんなところで、近所迷惑だろ?」

「「うるさい黙ってて!」」


 その後、近藤さんが来た家の近所の方々の話では、三時間口論し続けたという。

 ちなみに風車は家の庭に飾ってあるそうだ。

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