幕間(インターバル)その1
「で、これからどうするのよ。 俺は最後まで生き残る、以外ルール知らないんだけど」
「私も知らなーい」
「当事者が知らなくてどうすんの」
そう言ってはみたものの、若菜は教科書すら疲れると言って読もうとしないから当然といえば当然なのかもしれない。
「水瀬さんは?」
「......」
どうやら知らず知らずの内に嫌われてしまったらしいぞ。 しかしこれじゃあ会話が進まねぇんだ。 誰かなんとかしてくれ。
「お前等は先輩方から何も聞いてねぇのかよ」
若菜の特技で手編みの縫い物で捕縛されたままのニコポが口を挟んできた。 若菜曰く、袖のないセーターを着せたらしいが...それはきっとセーターではない。
「私の先輩は去年サッカー部に殺されちゃったしー」
「――私は、あみだくじで決まっただけで...」
「じゃあ、ニコポ以外全員何も知らねぇのか」
「これ外してくれれば教えてやるぜ」
以外と余裕があるのか、ニコポが自称セーターを顎で指してニヤっと笑う。
なんというか、別にロシア人だからとかそういう人種的な偏見は全くないつもりだが、ニコポの言ってることが全く信用できない。 大体俺はこいつに殺されかけてんだぞ。
「ほいほい」
「え?」
若菜が一本の糸を引っ張るとあら不思議、するするとニコポを縛っていたセーターがほつれてほつれて...って何やらかしてんだ。
「自殺行為だぁぁーー!!!」
「うわー...また随分マイナーな映画ネタとか...」
「そこはフォイヤー! って言いながら毛糸抜いてほしかったな」
「珍しいねー。トオルっちが止めないなんて」
「止めても無駄だろ」
まぁいいか、何かしようとしたらボール投げる前に椅子で頭をカチ割ろう。
「なんだよその目は、 別にもうあんたらと戦りあう気はねぇよ」
「嘘くささが半端ねぇけどな、俺は若菜のツレなだけだし、別にもうどっちでもいいわ」
「ほらっ! アキちゃん私の言ったとおりでしょ! ニコポは話せば分かるって!」
「...うん」
「言ったとおりってどういうことだ?」
「ニコポって隣のクラスじゃない、体育の時間で一緒に授業してるとよくいやらしい目で見てくるから、きっとそんなに敵意はないと思ったんだよね!」
「その理屈はおかしいだろ...」
「い、いやらしい目でなんて見てねぇ...」
つまり、ニコポは若菜に好意を寄せているらしい。 大変残念で気の毒な奴だな。
「とりあえず、知ってる情報、教えてっ?」
若菜の無垢な笑顔にニコポの顔がみるみるうちに赤くなっていく。
確かに若菜をよく知らずににっこり笑いかけられたら誰だってその気になっちまうだろうな。
「実は俺もよくしらねぇんだよ。 3日目の下校時間までに最後の1人にならなかったら、勝者なしでそのまま行事が終わるってことぐれーだな。 後ルール的なものも知らされないとか」
「......ニコポ君、他に何かないの?」
問いかける若菜の顔が笑ったまま動かない。 ニコポの奴、今人生で最も危険な選択をしてるぞ。 若菜が後ろ手に持ってる編み棒のせいか殺気がすごい、というかこのままじゃニコポが殺されるイメージしか沸かない。
「待て待て待て! 他に耳寄りな情報があるぜ。 先輩が言ってたんだが、とにかく無事に過ごしたいなら茶道部の部室へ行けっつーんだよ」
「...茶道部?」
茶道部といえばあれだ、大和撫子的な着物少女達が和室でお出迎えしてくれる奴だ。 でも、なんでまたそこに行く必要があるんだ?
「いいか、この行事は大きく分けて3つの集団に別れるんだ。 全員殺して勝者を目指す奴、3日間を仲間を募って生き残ろうとする奴、その中間にいて、自分の価値で命を守り通す奴」
「つまりその茶道部に行って皆倒せってことね!」
「...少なくとも茶道部に行けば何か情報が得られるかもってことか」
「そういうことだ」
「ええー? トオルっちどういうこと?」
「いいか、茶道部に行けって前年の代表者が言ったならな、恐らく今回も徒党を組んで仲間を募集してるか、ここで戦ってる他の生徒の為に何らかの利益を示して自分の命を守ってるってことだ。 そういうことをずっと続けてれば、生存率も上がる。 つまり、去年か一昨年から出てる生徒から情報をもらえるかもってこと。 分かった?」
「トオルっちってなんでそんな分かりづらい言い方するわけ? そこに何か知ってる人がいるかもって言えばいいじゃない」
「そういう性格なんだよ」
とりあえず、次に向かう先は決まったな。 場所は3年校舎3階 茶道部部室だ。