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異能力?部活動バトル!  作者: Kesuke
1日目
32/35

兄妹愛と虚空からの手紙 3

「これは俺だけの問題じゃねぇ、4人全員の問題だぜ」


ニコポが、ゆっくり立ち上がる。


「...殺るなら僕だけにしてくれないか」


便器を背負い前のめりに俯いたまま、原幸光が呟く。

みんなの視線が、原幸光に集まる。


「僕たちは少しでも早く帰ろうと思っただけなんだ、そのせいでとんでもない爆弾を踏んでしまった。麻子の能力は見たとおり積極的に戦うことはできないし、僕だけを殺れば十分だろう?」

「お兄ちゃん!」


なんかどっかで見たような光景が目の前で再生されているけれど、唯一違うのは、ニコポは本気で殺しにいこうとしてるってことだ。

このまま行けば大円団にはなりそうもない。


「ニコポ! とにかく一旦落ち着けよっ!」


腕を振り上げて止めようとして、止めた。 というより、やりたくてもできなかった。

若菜が"敵意がないことの証"として俺を縛っていたんだった。

今更遅いのだけど俺じゃなくてニコポを縛っておくべきだったんだ。 どのみち、もう遅い。

無理矢理止めようとしても、自分では止められない。 それを今になって思い出して情けない気分になる。

「――若菜、水瀬さん、どっちでもいいからニコポ止めてくれ」

女の子に頼むなんて情けない、男であることを辞めたくなるほど情けないものの、そんなこと言ってる場合か。

俺の言葉に、こっちを向いた水瀬さんと目が会う。

その瞳は第一印象、冷たい。 だけれど不思議な優しさをも持っているような、底抜けに明るくて、微塵の悪印象すら与えない若菜の瞳とはまた違った、吸い込まれるような瞳。


うお。


時間にして一瞬、一瞬だけれど魅入ってしまった。 こんな修羅場の中で。

目をパチクリさせる俺を見ながらほんの少しだけ、水瀬さんが笑う。


「...本当にニコポがこの人達のコト殺すと思ってます?」


やるだろ。 フツーに。 ニコポならやりかねない。

うん、と水瀬さんに頷く俺を見て何故かニコポも力強く頷く。

まさに"殺るぞ、俺は"と言わんばかりだ。


「...若菜は殺す気なんて少しもないですし。 ニコポが若菜に嫌われるようなこと、すると思います?」


ね、と水瀬さんが小さく確認すると、若菜は自信たっぷりに笑う。


「私はしないと思う!」


それに、と水瀬さんは続ける。


「手紙の狙いは私達に殺し合いをさせる為なのは確かなんですから、わざわざ狙い通りに動く必要なんてないんです」

「なんでそう言い切れるんだよ」


水瀬さんの断定口調に、ニコポが突っかかる。

てか、若菜が嫌うような事はしないって部分は否定しないのかよ。

さっきまでの凄みがまるで嘘のように消えてるぞ。


「でも、その手紙には"早抜け"の権利を与える、って書いてある」


口を滑らせた俺に、水瀬さんの眼差しが突き刺さる、さっき感じた優しさなんて今は微塵も見えない。 これはゴミを見る目だ。


「...その手紙の内容なんて、考えるだけ無駄です。 結局、その手紙の求めてるのは"殺し合い"だから」


水瀬さんは淡々と自分の考えを説明していく。


「殺し合いを是とする行事の中で、...見返り(早抜け)まで示唆してそんな事(殺し合い)を求める事自体無意味なのに、あえてそれをする理由...」

「三上君...部室で言ってたよね? "部費が2倍になる"なんかの為に殺し合いなんて起きるのかって」


「うーん、確かに言ったけど...」


イマイチ、ピンとこない。


「...戦う気がない人は必要に迫られなきゃ戦わない、つまり、手紙を渡されたのはきっとそういう人なんだと思うの」

「えーっと、つまりは戦う気のない奴のケツを叩いて回ってるってことかな」


なるほど、水瀬さんの言いたいことは分かった。

だけど水瀬さんの推論は合理的に考えて恐らくそうだろう。 というだけのことだ。

自分達が納得できる前提に仮説の仮説を重ねただけの、推理劇にすぎない。

それは水瀬さんだけでなく、全員がそうなのだけれど。


「だがさっきの答えにはなってねぇぜ。 殺し合いを促進する為の手紙だろうがなんだろうが、そこにある文面を信じてこいつ等は襲ってきたんだからよ」


ニコポはさっきまでのやる気は霧散したのかどっかりと椅子に座り込む。


еби(クソ)...まぁいいよ、皆がいいなら、俺はそれでいい」


ニコポだってみんなが少しでも危険を減らそうとしてることは分かってる。

ただそれでも、せめて一緒にいる仲間には人を殺すなんてコトをしてほしくない。

今更ながらに、騎士を操っていたあの生徒の事を思い出す。

自分が殺したわけではないし、そもそも自分は殺されかけて気を失ったんだ。 それでも、相手は死ぬことになった。

仕方が無かったのだとしても、今更ながらに疼いてくる良心の痛みは拭えない。


「トオルっち、大丈夫?」


若菜が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。


「うん、大丈夫」


終わってしまったことは仕方ない。 今度は繰り返さないようにする、それだけだ。

手紙の差出人が俺達を監視していたとして、これから調べていけば尻尾くらいは掴めるかもしれない。

今は、とにかく手がかりを見つけることが先決だ。


「今思ったんだけどよ、ココ、寒くねぇか?」


ニコポが窓を見ながら話題を変える。


「ロシア人でも日本の冬って寒いんだ?」

「日本だろうがロシアだろうが冬は嫌いなんだよ。 俺、寒がりだし」

「変なの」


ニコポの返事に若菜がクスクスと笑う。

確かに、冬の学校はいつも少し寒い。

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