兄妹愛と虚空からの手紙 2
「えっ、私達誰かに監視されてるの?」
監視されている、という俺の言葉に、若菜が首を傾げる。
何気ないその仕草が結構キュートで、惚れる男子生徒諸君が多いのもそこらに理由があるんだろうな。
なんて、大事な時でも極めてどうでもいいことを考えてしまうのは俺の悪い癖なのだ。 頭を切り替えても、知らないうちにまた頭が切り替わってしまう。 先生は緊張感がないって言ってたけどまさにその通りだ。 ってまただ...。
もう一度切り替えろ。 よし。
「そう、文面にある4人が殺しにくる、ってところ、ニコポと水瀬さんとはこの行事が始まった後に一緒に行動することになっただろ?」
若菜はうんうん、と頷く。
「てことは、少なくともこの行事が始まったあとにこの手紙が書かれたってことなんだよ」
若菜が顎に人差し指を当てて考える素振りを見せる。
2秒程ゆっくりと待って、先を続けることにする。
「俺達が4人でいた時は坂上先輩と会うまで、その後は茶道部を出た後だけだろ? じゃあいつ、この監視者は俺達4人だけがこの教室の前を通ることを知ったんだろう?」
若菜がそんなの当然と言わんばかりに自信満々に答える。
「図書室に行くって決まった時だね!」
若菜の言葉にただ頷く。
もしかしたら、一人だけ誰にも能力を見せなかった矢木先輩が犯人なのか? でも、理由がない。
そもそも"気づかれないように行動できる"能力だったとしたら、手紙を置くなんてことはせず、不意打ちでもすればいい話だ。
てことは、この手紙主は"こういう回りくどい方法しか使えない"のかもしれない。
それか、行事のルールとして"手紙が出される"ことがこの行事に含まれるか。
「とにかくよぉ、こいつ等はこんな嘘くさい手紙にまんまと引っ掛かって、俺達を攻撃してきたんだ。 その事実は覆らねぇ」
ニコポが言いつつ手紙で紙飛行機を作り、原麻子へと軽く投げつける。
紙飛行機はふわりと滑空すると、麻子の少し手前で頼りなく着陸した。 それを見ながら、麻子は膝に乗せた手をキュっと握る。
内心、腹わたが煮えくり返ってそうだな。
「私達は自分から進んで参加したわけじゃありません! こんな殺し合いの場から早く帰れるなら、縋るしかないじゃないですか!」
麻子が訴えるようにニコポへと反論する。
まぁ、確かに3日間も戦わずに過ごすのは至難の技だろうし、縋りたくなる気持ちも分からないではない。 っていうか俺たちだってさっさと帰りたい気持ちくらいある。
「その手紙が嘘か本当かなんて証明しようがねぇんだ。 俺たちの命が掛かってるからな。 おまけに、その手紙には失敗条件だとかそんなのも書いてねぇ。 てことはまた狙ってきたっておかしくねぇよな?」
いつの間にか、ニコポの手にはボールが握られていた。
その光景だけで、嫌な予感しかしない。
「ニコポ!」
「ウルセェ」
止めようとする俺の言葉に鋭く言い返して、ニコポは続ける。
「今"殺るべき"なのは、お前らだって分かってるだろ? 今殺らなきゃ次にいつまた狙ってくるとも知れねぇ。 しかもな、その時は今回よりももっと上手く狙ってくるんだぜ」
悔しいけど、反論できない。




