兄妹愛と虚空からの手紙
「それで...この手紙は何なんです?」
正直、この手紙の胡散臭さは相当なモノがある。
俺は受け取った手紙を若菜へと回しながら、とりあえずの疑問を聞いてみる。
細かいところは、この質問の後にすればいい。
「私達はずっとこの教室で隠れていたのですけど...気づいた時にはいつの間にかそこに...」
さきほどまでの敵、原麻子が振り返って後ろの黒板を指差す。
「最初この教室に入った時何もなかったのは確かだったんです」
「そう...ですか」
まぁ聞いたはいいが、実際にこの人達の話が嘘か本当かどうかなんて確認しようがない。 前回の行事からの生存者である神流先輩達もそのことについては何も言ってなかったし。
知らなかったから? それともあえて言わなかった? どちらにしろ、それについてはまた後で聞いてみればいいだろう。
この人達と手紙の文面から情報を集めて何がしかの予測をつけられるかもしれない。
こんな行事の真っ最中に "何の理由もなく手紙を送る"なんてことをする人間はいない。 俺達が話すためだけにわざわざ椅子を集めてきたのとはワケが違う。 "明確な意図"がなければ送る意味など全くないのだ。
「この手紙には『あなた方の参加目的を推察させていただいた結果』って書いてあるんですけど、この"手紙の主"は二人の参加目的を推測できる情報を知っている可能性があるってことですよね?」
"推察"という言い回しがあるということは、この手紙の主はこの二人、又は理由を知る誰かから直接の理由を聞かされたわけではない、ということだ。
「いや、それはないはずだよ。 僕は一昨日の夜に急遽参加することにしたんだ、妹の...麻子を守るためにね。 その理由は誰にも言ってないし、知らないはずだ」
どでかい小便器を担いだままの、水泳野郎改め原幸光が妹の代わりに答えてくれた。
「じゃあ、この手紙の差出人って心を読めるのかな?」
手紙を読み終わったらしい若菜が首を傾げて言う 。
誰にも言ってないのに、そういう能力を持っていてもおかしくない、だけど...。
「いや、さっきも言ったけど、心が読めるなら"推察"なんて書かないと思う。 幸光さん、この行事が始まってから麻子さんに参加した理由とか喋ってません?」
幸光は時たま背負った便器の重さで苦しそうに体を揺らす以外には前かがみになったままだ。
下を向いているせいで表情は窺えない。
「"兄妹二人が無事に生き残ること"を目標にするって話は合流した直後にしたけど、それ以外には特に...」
「ああ、くそ」
悪態が零れる。
手紙の文面を読んだ段階で予想はある程度していたけれど、いざその可能性が高いとなるとその脅威は計り知れない。
この二人に嘘がないなら、俺達は最初から何者かに監視されている。




