決着 深撃のダブル・トルペード
「三上ぃ! こっちは終わったぞ、そっちはどうだ!」
廊下から、耳朶を打つような声が響く。
いきなりの怒鳴り声に、目の前の女生徒はビクっと肩を震わせる。
地面に這いつくばって動けない2人を置いてきたことに若干の後ろめたさを感じていたから、ニコポの勝利報告でほっと一安心できそうだ。
だが、他の生徒が近くにいるかも分からない状態で大声を出すのは危険すぎる。
ニコポがあえて自分の居場所を教えるような行動をしたのは、まだ動けないからかもしれない。
もっとも、動けたとしてもこの女生徒が"文字の罠"を解除しない限り二人がここに来るのは不可能だから、結局は意思疎通するには大声で話すしかないのだけれど。
それか、何も考えてないか、ニコポの事だから、それはないと思いたい。
「な、なんですか一体...」
「俺達のお友達が、あんたの彼氏に勝ったってこと」
「か、彼氏じゃないです!」
「反応する所ソコかよ」
俺と廊下へ交互に視線を動かす女生徒は、見るからにもう動揺しまくり、狼狽しまくりだ。
これで降参してくれればと思うものの、彼氏を倒されたと聞いても能力を解除する気配はない。
おい、どうすればいい?
目線でそう若菜に訴えてみたが、若菜は惚けた顔でそっぽを向いている。
はぁ、と溜息。
「とにかく、お仲間ももういないみたいだしさ、負けを認めてくれよ」
「うう...」
「ほら、こっちとしても穏便に済ませたいし、な?」
精一杯のスマイルを作って笑いかける。
「トオルっち、すっごい不自然な笑顔だね」
おい若菜、水差してんじゃねぇ。
「うるっ、えっ? 」
一言文句を言おうとしたら、身体が動かない。
身体を見て納得した。 若菜の"編み物"が肩から足首まですっぽりと覆っていたからだ。
ニコポを捕まえた時と同じ、だろう。
なんつー早業だよ、全く分からんかった。
だが、何故?
「さって、トオルっちはご覧の通り殺せません! てなわけで停戦しましょ!」
なるほど、攻撃しませんさせませんってことか。
だが、なんで俺だけ。
だが、女生徒は不信感を隠しきれないような表情だ。 まぁ、当たり前だわな。
「私達のこと、油断させて殺す気じゃないんですか...?」
さっきから何でこの子は"俺達に殺される"ということばかりを気にするんだろうか? まるで俺達の目的がソレであると"知っている"ような物言いに、疑問が沸いてくる。
勿論状況が許す限りであれば、殺人なんて絶対に回避したい。
「殺す気だったら、もう"グサッ"ってやってるよっ」
そう言いつつ編み棒を目の高さに持ってきてニッコリ笑う若菜を見ていると、背中に冷たいものを感じてくる。
必要であれば本当にやります、そんな気配が漂っている。
「これ以上駄々こねると流石のトオルっちも怒って暴れちゃうかも...」
なんで俺が出てくるんだよ。
「し、信じますからっ、痛いのはやめてください!」
「いよっし! 平和が一番だねっ!」
うーん、できれば怖がらすような真似はしたくなかったのだが...
まだ1日目からこんだけ戦って、この調子で3日間も過ごすなんて考えたくねぇな。
若菜と目が合う。 鳶色の大きな瞳が、一瞬、片方だけ瞬く。
知り合いで俺にウインクする奴なんて、若菜くらいだろう。
ったく、面倒な事に俺を呼びやがって、だけど、こんな行事若菜一人にはやらせられないしな。
「若菜、早く全部終わらせて帰りてーな」
「うん、私もそう思う」




