深撃のダブル・トルペード 6
地面の下の敵は、自分の手首を握るニコポから逃れようと振りほどこうと必死らしい。
腕から下が見えない分、床から突き出た腕がもがく様はかなり気味の悪い風景だ。
そういえば昔子供の頃遊んだゲームにこういう地面から腕だけが生えているモンスターがいたっけな。
ゲームでは対した強さじゃなかったが、もしかしたらこの敵のように地面の下には本体がいたのかもしれない。
くそ、至極どうでもいいことばっか考えてるな、俺。
「三上! お前は森崎と先に進め!」
「あ、いや、無理だって! 文字を読まずに進むなんてできっこない」
「...動かなきゃ何もかわらねぇぞ、三上」
俺だって、動けるものなら動きたい、ニコポが敵を掴んでいる今が、目の前の"文章と机のトラップ"を攻略するチャンスだってことも。
「教室の奥の敵をやれ、俺はこいつをやる」
ニコポの、青色の目がじっとこちらを見つめる。
言葉にしなくても、その目でニコポの言いたいことが分かった気がした。
俺も命を賭けたんだからてめぇもそのくらいの覚悟でやれよ、とかだろうな、多分。
よし。
息を吸って、溜めて、吐く。
できるのか分からない、しかもできたとしても役に立つかも分からない。 だけど、前の戦いで見えた"アレ"が俺の持っている能力なのだとしたら、使うべきは今のはずだ。
「若菜、その能力を使う時、どうやって出してる?」
横に立つ若菜が一瞬、怪訝そうな顔をする。
「どうって、こう...スッとやってドーン! みたいな感じ」
うん、全くもって理解できないが、それでもやってみるしかないだろう。
「よし若菜、目を瞑ってついてこい!」
「えっ、ちょっと!」
若菜の手を握ってすかさず走り出す。 文章による罠? そんなこと知ったことかよ、俺が文字を読んでしまったとしても、"敵"の処まで行ければ、後は若菜がなんとかしてくれんだろ。
腹を決めたら、というか覚悟を決めたら、目の前の世界が変わった。
よくある心情的な描写のことじゃない、いやそれもあるんだけど実際に目の前の世界が変わった。
前に見た、あの青い湯気、湯気というよりは"気"のような物に近い気がするが、俺の"能力"は相手の能力を"気"として"視る"ことが出来るのかもしれない。
だが何ができるか、なんてのは後でいい。 今はこの力で若菜と"もう一人いるであろう敵"に向かうんだ。
「若菜、絶対に目を開けるなよ!」
「怖い怖い怖い怖い! そんなに走らないでっ」
「俺を信じろっ」
不意に読ませる為に紙切れが机の影に張られていても、この目のお陰で文字を読んでしまう前に俺も目を瞑ってやり過ごせる。
文字が目に入った途端に強制的に読まされてしまうのなら、文字を目に入れなければいい。 トラップが集中しているのは3年3組前、なら恐らくは目当ての奴もそこにいるんだろう? 一番安全なんだからな。
いきなり攻撃してきたのはお前等なんだから、俺達にやられたって文句を言うなよ。




