深撃のダブル・トルペード 4
「あいつまた隠れたぞ」
「三上ぃ、もう一回確認するけどよ、ほんとーーに、あいつは"文章"で攻撃するんだな?」
「さっきからそう言ってるだろ!」
「こりゃ、ひょっとすると」
「きゃっ」
水瀬さんの短い悲鳴。
なんで、ニコポの後ろにいて安全なはずの水瀬さんが。
三人の視線が水瀬アキの元へと集まる。
理由はすぐに分かった。 全員の時が止まった、ような気がした。
床から上半身だけを出した男が水瀬のブレザーとスカートを後ろから鷲掴みにしている。
恐らく、机の陰にいた男と同一人物だろう。
そしてこいつ、さっきまでは机のせいでよく見えなかったが上半身裸だ。
っていうか今は冬だぞ。 上半身裸は寒いぞ、いくらなんでも。
ゴーグルつけてるし、寒中水泳でもする気かこいつは。 ていうかいつ着けたんだよ。
走馬灯のように一瞬でツッコミたい所がいろいろ浮かんだが...
「へ、変態だぁぁぁ」
俺と若菜の口から出た全く同じ言葉は、ひどくシンプルなものだった。
「ちょっと...離してよっ」
振りほどこうと暴れる水瀬の制服を掴んだまま、男が再び床に沈み始める。
「あっ」
後ろに引っ張られる形でバランスを崩した水瀬さんの身体が宙を舞う。
「ちょ、バッカヤロッッ!」
水瀬さんの頭が床に激突する寸前、ニコポが右手を頭と床の間に滑り込ませた。 まるで、一塁手からのタッチアウトを避けてベースにタッチするかのような、なんというか華麗な動きだった。
しかし、見惚れてる場合じゃない。
「二人とも! 早く立てっ!」
「あー、俺の袖と水瀬の服が、床に呑まれちまった」
「えっ」
「あの野郎、ちゃっかり床の中に俺達の服を一部だけ埋めていきやがったんだよ!」
水瀬さんの着ているスカートとブレザーの背中部分が、なるほど床に吸い込まれるようにして消えている。
というより、取り込まれたといえばいいものか。
つまり、起き上がれないし、脱ごうにも自力では脱げないと。
この状況、背に腹は替えられねぇぞ、男にはやらなければいけない時があるもんだ。
「ニコポ!! 水瀬さんの服を脱がして脱出させるんだッ!」
「何...」
「迷ってる暇なんかない!」
「俺に狼になれと言うのかぁー! そんなことは無理だ、無理に決まってる!」
「狼になれーー! 服を脱がせ! 生き残るにはそれしかない!」
「...いい加減にしてっ」
くそ、水瀬さんの蔑んだ目線が痛い。 俺は最悪の状況に対応しようとしてるだけだぞ?! っていうか俺はアドバイスを送るだけなのかよ。
「水瀬、俺を許せー!」
おお、遂にニコポが水瀬さんのブレザーに手をかけた! だがすごい冷や汗だ! しかし下心で興奮してる場合じゃぁない! この敵に勝つ方法を考えろ! 考えろ!
だが、駄目だ。
「若菜、俺をビンタしてくれ」
「うん、する」
乾いた音が通路に響く、本気のビンタ、何も感じない、いや、痛みは数瞬後だ、覚悟を決めろ青少年。
「いてぇ...」
「目、覚めた?」
「うん、ありがとう」
「後、トオルっち気づいてないみたいだから言うけど、さっきから私たちずーっと攻撃受けてるんだよっ!」
若菜がカッターやらハサミの無数に突き刺さった編み物を指で示す。
なるほど、敵の行動がないと思ったら、俺の下心のせいで周りが見えてなかったというだけのことらしい。
そんな自分を必死に守ってくれていたと思うと、若菜の健気さは俺のハートにでかい右ストレートをお見舞いされた気分だ。
「ブ、ブレザーのボタンははずしたッ! おい水瀬ッ!! 俺はもう無理だッ! 残りは自分で脱げェー!」
「私のワイシャツ...一緒に呑まれてるみたいでまだ動けないんだけど」
「まじで勘弁してくれ」
くそ、突破口が見えてこねぇ。




