深撃のダブル・トルペード 1
「それで、どこから行くつもりなんだよ」
部室を出ると、ずっと黙り込んでいたニコポがようやく口を開く。
図書室、カウンセリング室、そして放送部。 神流先輩達との会話で知った手掛かりはこの3つだけなのだが、まぁ、何もないよりはマシだろう。
それにこの3箇所ははどれも多目的校舎にあるのだ。
「大きさ的にまず図書室かなー? 3階のフロアを半分くらい使ってるし、時間かかるかもっ、でしょ?」
「いや、意外とその辺は大丈夫かもしれない」
「えーっ、どうして?」
「調べたいのはあくまで学校のことだから、あくまでそれを重点的に探せば、時間短縮になるだろ?」
「なるほどー」
3年校舎の階段を下りながらお喋りしていると、いつの間にやら"メガネ"と戦った1階へと着いてしまった。
あの腐れ騎士が坂上先輩や俺達とヨロシクやっていたせいで渡り廊下は滅茶苦茶な状態のままだ。
消化剤の噴出した跡やら、廊下の奥には机や椅子まで散乱していやがる。
「おい、全員よく聞け、俺も自分でこういう事を言いたくはねぇんだが...ガリメガネの死体がねぇ」
「殺したんじゃなかったのか?!」
ニコポと坂上先輩以外にはメガネを殺した処は誰も見ていないのだ。 だから一先ずは死んだ、とニコポの言う事を信じていたのだが...まさか生きていた?
「体の上と下が離れ離れになって生きてる奴がいるかよ。 血の跡も残ってるしな」
ニコポに続いて中庭を見ると、確かに、メガネと戦っていた処には一箇所だけ真っ赤な血溜まりが残っている。 見たくはなかったが、あの出血量は流石に死ぬんじゃないか。
「どれどれー?」
「お前は絶対に見るな」
「まぁ、考えたって仕方ねぇ。 さっさと行こうぜ」
不思議なこともあるものだが、ニコポの言う通り、考えていたって仕方がない。
3年1組を超え、3年2組の前を通り抜ける。 どちらにも人の気配は無かったものの、誰かが戦ったあとなのか、2組の教室は机やら椅子やらがあっちこっちに散乱していた。
その一部がどうやら廊下の方まで吹っ飛んできたらしく、無残にも机やら椅子やらが半分になったり足の部分が切り取られたりして放置されている。
ガリメガネが坂上先輩と戦いながら壊して回ったのか?
「なぁ、どういうわけだ? この机やら椅子やら...メガネと戦った時は無かったはずだぜ」
「分かったよっ! 犯人はきっと行儀良く真面目には生きられない人だよっ!」
「真面目じゃないのはお前だ」
「夜まで待てば窓ガラス壊し、むぐっ?!」
「...そういう直接的なのは駄目っ」
「水瀬さん、助かるよ...」
しっかし、一体何をどうすれば椅子やら机をこんな風にできるのやら。
何気なく近くの、綺麗に半分が無くなった机を触ってみる。
「おい、注意しろ、見える所に敵がいるとは限らねぇんだからよ」
「なぁ、この机、ビクともしないぞ。 それにこれ、何か書いてある...?」
何故かビクともしない机の裏側に一枚、紙切れのような物が貼ってある。 意外と、こういうものは気になってしまう、紙を使って何かをする能力なのかもしれない。
結局、この廊下の机や椅子やらが"罠"だとしても、ここは通らなければいけないんだからな。
『恐怖だ。 僕の心臓を直接握られているかのような悪寒。 震える程のこの悪寒に、助けを呼ぶ声すら出せない』
紙切れの文章を読んだ直後、全身が不意に粟立つ。 これは感覚というよりは、動物の本能というものに近いのかもしれない。
落ち着け、落ち着け、落ち着け、だめだ、だめだ、逃げろ。 すぐに後ろを向いて逃げるんだ。
今すぐに逃げ出したいという衝動、逃げろ、という命令を分かっているはずなのに、竦み上がって言うことを聞かない足。
これは恐怖だ。 俺は...先手を、取られた。




