幕間:三年校舎の懲りない面々 3
「じゃあ、協力させてもらってもいいですかね?」
「モチロンよ」
「三上ぃ、ちょっと待てよ。 このご先輩方に聞きたいことがあるんだよ」
ニコポだ。
入り口から先輩方を睨みつけて、さっきまでの友好というハッピーな雰囲気を文字通りぶち壊してくれていやがる。
この男が、このタイミングで話に入ってくるとは、正直もういい流れには絶対にならない気がする。 この状態、スキップボタンがあるなら躊躇うことなく押すのにな。
あっ、スキップボタンはあくまでスキップするだけだから駄目か。
「協力しようっつーのも、先輩方の能力を知らないことには話になんねーな。 それに、話に関しても1年の時からの生存者達が、そんな簡単に仲間を募るかね?」
「ふう...二年、立場が分かっていないようだな。 お前達を纏めて殺そうと思えば、すでにやっている」
「八木君、やめてっ」
「おーこえー、つまりやろうと思えばすぐにでも"殺れる"能力ってわけだ、 なら尚更怖くて近づけねぇな」
「ニコポ! いい加減に...」
「お前以外の"命"も懸かってんだぞ」
言葉が詰まる... 確かに、ニコポの言い分は正しいのかもしれない。 だけど、先輩方も嘘をついているようには思えない。
「三上、お前がこの行事で、本当の意味で"信用していい"人間はな、森崎と水瀬だけなんだぜ」
「能力のことを明かすのは皆で仲良くしてからと思ったのですけれど...」
ニコポはあくまで強気な態度を崩さない。
「俺と水瀬の能力は坂上先輩が見てるんだ。 今度は先輩方も見せてもらうぜ」
「神流の能力は目に見えるものじゃない。 それに、この部屋に来た時から既に射程に入ってる」
「私の能力って、この和室の中では敵意を持った攻撃を無効にできるんです」
臆面も無く自分の能力を伝えて、尚且つ敵視してる相手に向かってにっこりと笑えるのは若菜とこの神流先輩だけだろう。
もっとも、その感情表現ができる自信の出処は違うんだろう。 神流先輩は能力への自信から、若菜は脳味噌の軽さから。
とにかく、この和室内での攻撃が禁止されているなら仲良くすることにもう躊躇いはないだろう。
「ニコポ、能力まで教えてもらったならもういいだろ! 」
「本当に能力がその通りだと決まったわけじゃない」
「じゃあさっ! もうこうやって試してみようよ!」
「え」
若菜が言うが早いか、ノーモーションで拳が目の前に突き出される。 しかも、編み棒を握りしめて。
文字通り眼球の目の前で、棒の先が何かに阻まれているかのように止まっている。
若菜の不思議そうな表情から、止まったのは能力によるものであることが一目瞭然だ。
「うーん、ビクともしない」
「お前、俺を殺す気だろ」
「そんなことないよ! 私はねっ、トオルっちと同じで人を信じて生きたい人だからね!」
「そんな信じ方を俺が死ぬまで続ける気かよ」
「ねぇ。 私ね、先輩達の事、信じるよ。 モチロン、ニコポっちのことも」
若菜の言葉で、八木先輩まで含めた全員が、ニコポを見つめる。
「...俺が決めることじゃねーしな」
ニコポの言葉に神流先輩がくすくすと笑う。 若菜は、肩越しに俺を見るとはにかんで小さくピースを作る。 ううむ、こういう仕草は悔しいが可愛い。
それに、きっと今俺達は同じことを思ってる。
ニコポの奴、素直じゃねぇな。




