重厚なメディバル・ウォーフェア 4
若菜が騎士に飛び掛かると同時に、俺は背を低くして騎士の脇を走り抜ける。 騎士は俺の方など見向きもしない。 女の子趣味かこいつ。 恐らくこいつも男だろうが、露骨に無視されるのはちょっと悔しいぞ。
とにかく、スライディングしながら消化器はひっつかむ。
「よしっ、これでひとまず...」
「あぐっ」
後ろを振り返って驚愕した。 若菜が騎士に首を掴まれて宙吊りになってやがる。 一体今の瞬間に何が起きたんだ。 あいつ、何やらかしたんだ。
騎士は坂上先輩を大剣で押しやるとそのまま窓下の壁へと若菜をぶつけるようにして押しつけ、そのまま首を締め上げる。
「ふ.....ぅ...」
「おいてめぇぇ、そりゃあ洒落になってねぇだろうがよぉぉ」
反射的に消化器を手に持って走り出す。 何としても若菜を助ける。 クソが、俺もキレちまったぜ。 そのせいなのか知らないが騎士の青いオーラも見えすぎるほど見えるぞ。
「森崎若菜は絶対に助ける。 だがその為にはあの野郎をぶちのめさねぇとよぉ。 喰らいやがれ」
ニコポが、ボールを投げた。
ボールは青い人魂みてぇだし、何より速えぇ。 くそ、俺よりボールの方が早く着くなんてよ。
だが、真横からのニコポの直球を騎士は一瞥すらせず右手で払う。 ボールが剣に触れた瞬間、バラバラに割れた。 野球ボールじゃねぇ、ありゃ水瀬の"陶器"だ。
「"破片"じゃあ騎士には効かねぇだろうがよぉ、破片一つ一つの"回転"はどうなんだよ」
だが騎士は飛んでくる破片を片手だけで律儀に全て破壊していく。 なんなんだ、こいつの防御する時のスピードや正確さは異常すぎるぞ。
だが、ニコポのおかげで騎士は完全に俺に背を向けた。 チャンスだ、若菜ちゃんを殺そうとしやがって、本気でぶっ殺す。
「しねぼけえええ」
ガゴッ
入ったと思った。 完全に背後を突いたからな。 だが、なんでこいつは振り向いて防御してやがるんだ?
だが、それでも両手を使わせた。 若菜ちゃんは...苦しそうにしてる。 間に合ってよかったぜ。
ただ俺の攻撃は終わっちゃったし、殺されるな、俺。
「胴ぉぉっ!!」
騎士より先んじて坂上先輩が薙刀を振るう。 が、 背後の攻撃すら防御する騎士に当たるわけがない。 なんとか、なんとか若菜だけでも向こうに。
「おい三上! 消化器を使え!」
「え?」
「さっさと使えッ!」
半ばヤケクソになりながら安全弁を外して力一杯ハンドルを握りこむ。
「うぉぉぉ! ヤケクソぉぉぉ」
「ちょっ! 何を...ごほっごほっ」
白い粉末が一瞬で騎士の周りをを埋め尽くす。 これじゃ俺自身も視界が効かなくなるぞ。 というか息が止まる。 苦しい。 同じ目に遭わせてる若菜、坂上先輩、ごめん。
「おめぇらさっさと離れろぉ!」
ニコポの声が聞こえる。 見にくいんだよくそが。 若菜を連れていかないと。 うずくまってる若菜をなんとか抱きかかえて一気に走る。 騎士も"視界"が効かないのか俺達に攻撃してこない。 ん、"視界"が効かない?
「水瀬、見つけたか?」
「...うん。 窓の外の植栽の中に隠れてる」
「よーし、植栽だったらなあ、そのまま貫通してよぉ、ぶち殺せるな」
「ニコポ...お前...何を言って...」
「騎士の"本体"だろ。 森崎を置いてさっさと植栽に行け。 それじゃぁよっと、よいしょぉぉ!」
ニコポはそう言うといきなり外に向かってボールを投げつける。
弾丸のようなボールが植栽へと飛び込んでいく。
ボールが吸い込まれた直後、植栽から猛烈な勢いで生徒が一人這い出てきた。
「痛ってぇぇぇぇ! 助けてぇ、骨っ! 足の骨っいってぇぇ!!」
無駄に甲高い悲鳴の奴だ。 憎たらしいあの騎士を消すにはこいつを殺るしかないんだよな。 まぁ若菜ちゃんの借りもあるし、どのみちただじゃ置かないけど。
植栽の中、か、他の生徒に見つからずに痛い目に合わせるには好都合だな。




