副社長室にて 後
喧嘩するほど仲が良い。
俺には、富永に恩がある。
それを最善の方法で返すにはどうするべきか。
俺はゆっくりと目を開けた。
「俺には富永に恩があります。それを、ちゃんと倉田良介として返したいんです。
そのために俺は、富永を支える義兄さんの手助けをしたいんです。
だからもし、彼女が富永を利用しようとするのなら、俺は彼女と別れます。
しかし、彼女にその心配はありません。
義兄さんも知っているでしょう? 俺はそういう目に敏感なんです」
正晴は立ち上がって、俺の肩に手を置いた。
「本当に好きなんだな、彼女のことが」
少し俺のほうが背は低いので、自然と上目遣いになった。
俺はもう一度微笑んで、頷いた。
「はい」
義兄は笑った。
突然、くしゃくしゃと髪を撫でられた。
「あー、憎いなー! おまえにそんな顔をさせるあの女が憎い!」
「やめてくださいよ! 髪型が変になります!」
「知るか! 俺は今、猛烈に嫉妬しているぞ!」
「そんなこと知りませんっ!」
ブラコンな兄を持つと、こういうとき後悔する。
周囲が呆れる俺たちの義兄弟ゲンカは、大体いつもこんな感じで始まる。
『裏話 主に富永家のこと。でもやっぱり正晴は……』は、
『肌をなでる風』の『新緑は青く』と『夏の終わりを告げる風』の間のお話です。
『裏話』第1弾、終了です。
お付き合いくださり、ありがとうございました!