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回想 中


 るりと正晴は、年は近いがあまり仲が良くなかった。


 二人より十近く離れた俺と直隆は、逆に年が近いから、会えば遊んだし、話もした。あっさりとした友人のような関係だった。直隆は、父親に似たのか無口なタイプだった。だから主に話すのは俺のほうで、彼は聞き上手だった。


 母の言うように、すぐに新しい生活には慣れた。それはたぶん、定期的に様子を見に来てくれた義父の優しさと、俺と部屋が近かった正晴が自分に親しくしてくれたおかげだったように思う。


 初めは、二人のそうした態度が不思議で仕方なかった。


 幅広く事業を展開する義父・富永敦は不思議な人物だった。子供心にも畏怖の念があるのなら、俺はそれに近い感情を抱いていた。彼の、日頃は無口だが物を言うときの鋭い正確さ。己の意志を通そうとするときの、あの切れ長の眼光の強さ。あの威厳に満ちた風格が、スラリとした長身から滲み出る様は何とも表現できなかった。それなのになぜか俺と接しているときは、彼は普通の人間になった。手を伸ばして触れようと思えば簡単に触れられた。ただ、掴めないだけで。


 義父は優しかった。あまり怒るということはしなかった。そしてたぶん、彼は母・櫻子の前でだけ一番やさしい人間になっていた。母に対するあんなやさしい笑顔を、俺は他に見たことがなかった。ああ、この人は本気で母を愛しているんだと思った。


 母も、俺に対するのとは違う意味で、彼を愛していた……。


 俺が、初めうまく義父に心を開けなかったのは、そのせいなのだろう。三人の実子に羨ましいと思われるほど、優しくしてもらっていたのに。


「お前は富永の人間だ。いつまでも泣いているんじゃない」


 母が亡くなった後、義父は俺を自分の実子同然に育てようとした。俺の願いを酌んでくれたからだ。




「良介」


 綺麗な母の亡骸の前で、あの人は一つだけ俺に訊いた。


「お前は何がしたい?」


 その時、俺の中ですでに答えは決まっていた。


 もう、母のためだと言えないのなら――


「――僕は、義兄の力になりたい」




 邸に来て、不安を抱えた俺の手を最初に引いてくれたのが正晴だった。


 正晴は、何かと俺にかまった。よく面倒を見てくれた。子供の相手が好きだったからではない。彼は、疲れていたのだ、後継としての日々の生活に。それを紛らわせる相手として、彼は富永の空気を持たない俺を選んだ。


「おまえは新鮮でいいな。俺に期待しないし、俺が外見を装う必要性も持たない。こうやって気楽に本を読んでいても、おまえは邪魔をしない」


 年が離れていることもあって、俺と正晴には共通の話題が少なかった。だから、彼が本を読むそばで俺が宿題をするという構図がほとんどだった。たまに彼が本を読みながら寝ているときに、水性ペンで顔にイタズラをすることもあった。彼はよく、怒るではなく笑ってくれたのだ。もちろん、やり過ぎたときには叱られたが。


 俺は、誰かが自分を少しでも頼ってくれていることが単純に嬉しかった。


 正晴は心のどこかで「家族」を求めていた。


 そういう意味で、彼は俺と似た者同士だった。



読みにくくてごめんなさい!

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