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副社長室にて 前

その顔に、俺はいつも狼狽する……。


「別れろ、良介!」

 会って第一声がこれだった。



 俺は大きくため息をついた。


「正晴義兄さん、一体何の話ですか?」


 仕事中だというのに、部長に言付けて正晴は、俺を自室に呼び出した。

 この頃、会えない日が続いていたからこういう行動に出るのはわかるが、


「わざわざこんなところで話さなくてもいいでしょう。休憩室でも、それがダメなら近くの喫茶店にでも行って――というか、昼休みに呼び出してくださいよ」


「おまえ、こんな話を誰が聞いているかもわからない場所でできると思うのか?」


「ここは副社長室です。義兄さんの個人的な部屋ではありません。仕事中です」


「この際、固いことは言うな」


「義兄さん。いくら部長が俺たちの関係を知っているからといって、『兄、待つ』って変な紙を渡すのはやめてください。困っていました」


 俺はまた、ため息をついた。


 正晴が明確に用件を言って俺を呼び出さなかったのは、きっと自分に配慮してくれたからだろう。

 なんとなくそれがわかるので、何を話したいのかも察しが付いてしまう。


「『別れろ』……それは、彼女とのことですか?」


「他にも誰かいるのか?」


 俺が部屋に入ったときから、正晴は手元の書類から一度も目を離していなかった。

 こっちは仕事を中断してきたというのに、この要領の良さが憎らしい。


「いませんよ」


「良介。悪いことは言わない。あの女とは別れるんだ。おまえはまだ若いんだ。しかもその母親似のルックスだ。言い寄る女はいくらでもいる」


「そういう言い方はよしてください。……母親似というのは嬉しいですが、それは俺が女顔だと暗に言いたいんですか」


 いや、と正晴は軽く訂正した。


「その泣き黒子が、櫻子さんそのままなんだ。確かに雰囲気も似ているが、やはりおまえは男だ。残念だったな」


「……なにが残念なんですか」


「それより良介。お願いだから言うことを」


「聞けません」


「良介!」 


 正晴の哀願するような顔を見て、俺は一瞬たじろいだ。


 正晴は、書類を読むときなど仕事中は大抵眼鏡をかけている。彼は、眼鏡をかけてもかけなくても容姿が整って見えるという珍しいタイプなのだが、こういうときはいけない。


 仕事場では顔色一つ変えない冷徹な義兄は、私情を挟む、というより俺の事となるとびっくりするくらい情けない顔になる。


 いくつになってもそれには慣れなくて、俺はいつも狼狽する。


「義兄さん、お願いですからそんな顔をしないでください」


「良介、頼む! 一生のお願いだ」


「そんな嘘くさい頼み事は余計に聞けません」


 正晴は話術が得意だった。口でなんて、本来ならば俺が勝てるはずがなかった。

 それなのになぜかいつも彼は、俺にはそれを使わなかった。



 だから正晴をよく知る周囲は、彼をこう言う。



 ブラコンと。



あー、本当は格好いいお兄さんだったのに(遠い目)


ちょっとギャグチックなものを書くと、誰か1人は残念な性格になってしまいます。


ま、面白いからいいんですけどね(開き直り)


温かい目で見守ってやってください……。

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