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ー第5節 瞬く間に紅蓮の炎と有毒な黒煙が燃え広がり、地下室は完全な密室の灼熱地獄と化す。皮膚を焼く熱さと呼吸を奪う濃煙の前に、ミオは死の苦しみという最大の恐怖に直面することになる。

第5節 瞬く間に紅蓮の炎と有毒な黒煙が燃え広がり、地下室は完全な密室の灼熱地獄と化す。皮膚を焼く熱さと呼吸を奪う濃煙の前に、ミオは死の苦しみという最大の恐怖に直面することになる。


「きゃあああっ!」

 私は猛烈な熱波に弾き飛ばされるようにして、部屋の奥へと後ずさった。

 瞬く間に紅蓮の炎が燃え広がり、地下室は完全な密室の灼熱地獄と化した。

 古い紙が燃えるパチパチという音。火が空気を喰らう轟音。それらが狭い空間で反響し、鼓膜を破りそうなほど響き渡る。

 火災報知器がけたたましく鳴り響き始めたが、スプリンクラーは作動しない。おそらく、工作員の手によってあらかじめ設備が切断されていたのだろう。

「げほっ、ごほぉっ!」

 炎の熱さよりも早く、不完全燃焼によって発生した有毒な黒煙が室内に充満し始めた。

 視界は真っ黒に染まり、一寸先も見えない。息を吸い込むたびに、喉の奥を焼火箸で突かれたような激痛が走り、肺が激しく痙攣する。

 皮膚をジリジリと焼く異常な熱さ。

 目をこじ開けることもできない濃煙。

 酸素が急速に失われていく窒息感。

 これまで世俗の執着や欲求から解放され、常に波風一つ立たない至高の境地にあったはずの私の心に、生物としての根源的な恐怖が強烈な勢いで侵食してきた。

 死ぬ。

 ここで、私は生きたまま焼かれて死ぬのだ。

 どれほど他者からの評価を捨て去り、無心で仕事に打ち込めるようになったとしても、物理的な生命の危機の前では無力だった。肉体が破壊され、意識が永遠の闇に沈んでいくという『死の苦しみ』。それは、人間にとって決して避けることのできない最大の恐怖だ。

「いやっ……助けて……レイ部長……!」

 私は床に這いつくばり、少しでも煙の薄い場所を探して喘いだ。しかし、炎は四方八方から迫り、逃げ場はどこにもない。

 熱でパソコンのモニターが溶け落ち、私が何日もかけて完成させた『真実の証拠』が失われていく音がした。

 私という小さな命が、巨大な悪意と炎の前に無惨に握り潰されようとしている。

 意識が遠のき、絶望の淵に沈みかけた極限状態の中、私はこれまでにない絶対的な命の危機に晒されていた。

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