ー第5節 手柄を奪った同期のユリカも水増請求などの私的流用が可視化され自滅する。しかしミオに復讐の意志はなく、他者を想う心と日々の平穏な仕事にただ至上の幸せを感じていた。
第5節 手柄を奪った同期のユリカも水増し請求などの私的流用が可視化され自滅する。しかしミオに復讐の意志はなく、他者を想う心と日々の平穏な仕事にただ至上の幸せを感じていた。
派閥争いの崩壊は、思わぬところにも波及していた。
ある日、レイ部長がいつものように地下室へやってくると、少し呆れたような顔で口を開いた。
「ミオ君、君をここへ追いやった元凶である同期の女……ユリカだったか。彼女が昨日、懲戒解雇処分になったよ」
「えっ……ユリカさんが?」
私はタイピングの手を止め、ぱちぐりと瞬きをした。
「ああ。君の作ったシステムに、営業部の最近の経費データを入力してみたんだ。そうしたら、彼女が担当していた複数のプロジェクトで、下請け業者への水増し請求と、その差額の私的流用が山のように炙り出されてね」
レイ部長の説明によれば、ユリカは自分の手柄として奪い取ったプロジェクトの予算を操作し、架空のコンサルタント料などを計上して、自分のブランド品の購入や豪遊の資金に充てていたらしい。
彼女は狡猾に立ち回っているつもりだったのだろうが、私が組んだ【神の検索機能】の前では、そんな小手先の誤魔化しなど赤子の手をひねるようなものだった。
不自然な金額の変動は瞬時に可視化され、彼女は自らが長年手を染めてきた悪事によって、完全に自分の首を絞めて自滅したのだという。
「泣き喚いて見苦しい言い訳をしていたが、完璧な証拠の前ではどうにもならなかったよ。君から手柄を奪い、理不尽に陥れた報いを受けたんだ。これで少しは、君の溜飲も下がったんじゃないか?」
レイ部長は、私のために仇を討ってやったとでも言いたげに、優しい眼差しを向けてきた。
しかし、私の心には「ざまあみろ」といった復讐の喜びや、優越感などは微塵も湧き上がってこなかった。
「……そうですか。彼女、そんなことをしていたんですね」
私はただ静かに呟き、手元にあった古い資料を丁寧にファイルに綴じた。
かつての私なら、自分の正しさが証明されたことに歓喜し、彼女の不幸を嘲笑っていたかもしれない。しかし、おつまみによって心の澱を完全に浄化され、至高の境地に至った今の私には、他人を貶めるような黒い感情は存在しなかった。
「ミオ君?」
「あ、いえ。レイ部長、ありがとうございます。でも、私はもう彼女のことは何とも思っていないんです。誰が失脚しようと、私のやるべきことは変わりませんから」
私は微笑みながら、再びキーボードに手を置いた。
他者を憎むことに時間を使うよりも、他者を想う心を持ち、過去の人々が遺した命のバトンを未来へ繋ぐこと。この埃まみれの書類整理という、日々のささやかな仕事の中にこそ、私の真の平穏と静かな充実があるのだ。
世俗の争いから解き放たれ、ただ無心で役割を全うする。
それこそが、私が見つけた現世での至上の幸せだった。




