ー第3節 無心で入力されたデータは巧妙に隠蔽されていた点と点の不正を見事な線として繋ぎ合わせ、エクセル上に赤裸々な真実を描き出していく。揺るがぬ物理的証拠が完成する瞬間だった。
第3節 無心で入力されたデータは巧妙に隠蔽されていた点と点の不正を見事な線として繋ぎ合わせ、エクセル上に赤裸々な真実を描き出していく。揺るがぬ物理的証拠が完成する瞬間だった。
三時間ほどキーボードを叩き続けた頃、私の構築したエクセルの画面上に、ある奇妙な法則性が浮かび上がってきた。
「……あれ?」
私はタイピングの手を止め、画面をスクロールした。
営業第二部が二〇一二年に発注した大型商業施設の建設資材の領収書と、同年に資材調達部が全く別のダミー会社に支払ったとされるコンサルタント料。それぞれ別の段ボールに保管され、別のファイルとして処理されていたはずの点と点の情報だった。
しかし、私が組んだシステムが、両者の間に隠された見事な『線』を自動的に抽出し、赤い警告色でセルを染め上げていたのだ。
「金額の下四桁が完全に一致している。おまけに、コンサルタント料が振り込まれた三日後に、商業施設の資材単価が不自然に引き上げられている……」
私はさらに過去のデータを引っ張り出し、その線を追った。
すると、まるで芋づる式に、隠蔽されていた不正の全貌が赤裸々な真実として描き出されていくではないか。
別のプロジェクトの予算を装って裏金を作り、それを通行税のように特定の役員が懇意にしている関連企業へと流し込む。さらにその関連企業の役員名簿には、当時の営業第二部長の親族の名前が連なっている。
誰の目から見ても明らかな、会社を私物化する悪質なスキームだった。
これが、レイ部長の言っていた『声の大きさと社内政治で有耶無耶にされてきたグレーな決済』の正体だ。
私はすぐさまレイ部長の内線番号を鳴らした。
「もしもし、レイ部長。先ほどお預かりした二〇一〇年代の資料ですが、入力が終わりました。おっしゃっていた不自然な資金の動き、全て一つのルートに繋がりましたよ」
『……なんだと? まだ三時間しか経っていないぞ。たった今、僕が三十箱の段ボールを置いていったばかりじゃないか』
電話の向こうで、レイ部長が信じられないというように息を呑む音が聞こえた。
「はい。ダミー会社を経由した資金還流のルートと、関与した人物のリスト、裏付けとなる全ての領収書のファイル番号をリンクさせておきました。これで、完璧な物理的証拠になるかと思います」
『……すぐに行く。一歩もそこから動くな』
数分後、血相を変えて地下室に飛び込んできたレイ部長は、私のパソコン画面を見るなり、歓喜と畏怖の入り混じったような深いため息をついた。
「素晴らしい……。ミオ君、君は本当に魔法使いか何かか。歴代の監査部が何年もかけて暴けなかった闇を、たったの三時間で完璧な証拠として形にしてしまうなんて」
「私はただ、数字の矛盾を直しただけですから」
私が微笑むと、彼はその証拠データを自身のタブレットに転送し、「これで、あの腐った連中の息の根を止められる」と、鋭い狩人のような笑みを浮かべたのだった。




