ー第2節 ミオは温かいお茶を飲む度に現れるおつまみモンスターに日々の小さな澱を浄化してもらい、常に至高の境地を保ち続ける。そして常軌を逸した集中力で断片的な領収書を入力していく。
第2節 ミオは温かいお茶を飲む度に現れるおつまみモンスターに日々の小さな澱を浄化してもらい、常に至高の境地を保ち続ける。そして常軌を逸した集中力で断片的な領収書を入力していく。
レイ部長が監査部へと戻っていった後、私は一人きりの地下室でふうっと息を吐いた。
いくら私に世俗の欲求がないとはいえ、連日運ばれてくる膨大な資料の山と、それに付随する底知れない悪意の痕跡に触れていると、どうしても心に微かな疲労や閉塞感がチリチリと溜まってくるのを感じる。
私はデスクの引き出しからティーバッグを取り出し、給湯室から汲んできたお湯を注いで、温かいほうじ茶を作った。
湯気がふわりと立ち上るマグカップを両手で包み込み、ゆっくりと一口飲む。
――ピタリ。
その瞬間、周囲の空気が凍りつくように停止した。
そして私の目の前の空間に、あの毛むくじゃらの存在、『おつまみモンスター』がフワリと姿を現す。目も口もないその奇妙で愛らしい生き物は、私が日常の中でわずかに溜め込んでしまった「疲れ」や「ため息」といった日々の小さな心の澱を、スゥーッと掃除機のように吸い込んでいく。
ズズズッ……という心地よい感覚とともに、胸の奥の微かな重たさが完全に消え去る。
そしておつまみは、私に力強いイメージを送ってくるのだ。
死後の楽園や来世への逃避などという不確かなものではなく、過去から未来へと連綿と続く『命のバトン』の尊さ。今ここにある現実での究極の心の平穏。それこそが至高なのだと。
数秒間の完全な浄化を終え、おつまみが空中に溶けて消えると、私は再び『至高の境地』へと立ち戻っていた。
一切の波風が立たない、恐ろしいほど澄み切った水面のような心。
「さて、始めましょうか」
私は完全にリミッターが外れた脳で、エクセルを開き、キーボードに指を這わせた。
カタカタカタカタカタッ!
静寂の地下室に、高速のタイピング音が響き渡る。
私の常軌を逸した情報処理能力は、留まるところを知らなかった。段ボールから無造作に掴み出した断片的な領収書、日付の掠れた稟議書、手書きのメモ書き。それらの情報を、まるでスキャナーで読み取るように一瞬で脳に記憶し、適切なセルへと流し込んでいく。
単に文字を打ち写しているわけではない。
私の脳内では、入力と同時に高度なマクロと関数が自動で構築され、異なるプロジェクト間の日付のズレ、名目の不自然さ、金額の合致などを瞬時に計算し、エクセル上にハイパーリンクを張り巡らせていた。
無心で作業を続ける私のタイピングは、もはや一つの芸術的な舞いのようにさえ見えたかもしれない。地位や名誉への執着から解き放たれ、ただ与えられた記録を繋ぎ合わせることに没頭する。それはまさに、今この現実世界で得られる究極の幸せの形だった。




