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ー第5節 過去の仕事に光を当てたかっただけと語るミオ。権力闘争とは無縁の純粋な心と、日々のささやかな達成感に満ちた姿に強く心を打たれたレイは、彼女を自らの権力で庇護すると決意する。

第5節 過去の仕事に光を当てたかっただけと語るミオ。権力闘争とは無縁の純粋な心と、日々のささやかな達成感に満ちた姿に強く心を打たれたレイは、彼女を自らの権力で庇護すると決意する。


「恐ろしいもの、ですか?」

 私は困惑しながら、改めて自分の作った画面を見直した。

「私はただ……埃を被った過去の仕事に、光を当てたかっただけなんです」

「光を当てる?」

「はい。この地下室にある段ボールは、ただのゴミではありません。数十年前の先輩たちが汗水流して働き、悩んで、決断して、次の世代へと繋いできた『命のバトン』の記録です。それを、誰も見ないままカビさせてしまうのは、あまりにも悲しいじゃないですか」

 私の言葉に、レイ部長は言葉を失ったように沈黙した。

「誰かに評価されたいとか、このデータで会社をどうこうしようとか、そんな大それたことは考えていません。ただ、日々のささやかな作業のなかで、先輩たちの軌跡を綺麗に整頓していく。他者を想い、繋がりを感じる。それだけで、私は十分に満たされているんです」

 あの『おつまみ』が見せてくれた、現世での至高の境地。

 出世や権力闘争といった泥沼のような争いから解放された私の心は、ただ純粋な達成感と平穏に包まれていた。

 その私の無欲で清らかな姿を前にして、レイ部長の瞳が微かに揺らいだ。

 彼は三十歳という若さで監査部のトップに立ち、日々、社内に渦巻く欲望や裏切り、泥沼の派閥争いの最前線で神経をすり減らしてきた。他人の粗を探し、不正を暴く冷徹な日々。彼自身もまた、地位や権力という名の重圧に苦しみ、誰のことも信じられない孤独の中にいたのだ。

 そんな彼の前に突然現れた、私という存在。

 権力にも金にも興味がなく、ただ先人たちへの敬意と他者を想う心だけで、誰も成し得なかった奇跡のようなシステムを構築してしまった女。

「君は……」

 レイ部長は、深く息を吐き出した。

 その顔から冷徹な仮面は完全に消え去り、代わりに何か温かいものを見つけたような、安堵と決意の入り混じった柔らかな表情が浮かんでいた。

「君は、なんて恐ろしくて、そして美しいんだ」

「えっ?」

「ミオ君。君のその稀有な能力と、純粋すぎる心は、この魑魅魍魎が跋扈する会社ではあまりにも無防備だ。いつか必ず、悪意を持つ者に利用され、潰される」

 彼は一歩踏み出し、私の目を真っ直ぐに見据えた。

「だから、僕が君を守る。監査部エースとしての全権力をもって、君のそのささやかな平穏を、僕が全力で庇護しよう」

 それは、孤高の死神と呼ばれた男が、初めて他者に心を許し、守るべき尊いものを見つけた瞬間だった。

 こうして、ただの窓際OLだった私と、冷徹なエリート部長との、奇妙で運命的な協力関係が幕を開けたのである。

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