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【第1話】 星読みの少女と、7年後の終焉

夜空は、いつも流れ星で満ちていた。

 大陸アステルの北端、風の吹きすさぶ高台の村――「ルナ・フォルテ」。

 人口三百に満たない小さな集落だが、星読みの名門として知られていた。

 星は神の意志。流れ星の軌跡は未来を告げる。

 だからこそ、村の子どもたちは幼い頃から星を読み、星に祈り、星に生きる。

 ――その夜も、星は降り続けた。

「リナ、また屋根に登ってるのか?」

 声をかけてきたのは、幼馴染のカイルだった。

 十六歳。少し背が高くなっただけで、昔と変わらぬ笑顔。

 手には、村の鍛冶屋で打ったばかりの短剣をぶら下げている。

「うん。今夜は……なんだか、特別な星が降る気がして」

 リナは答えた。十五歳。銀色の髪を風になびかせ、瞳は夜空の色。

 星読み見習いとして、すでに村一番の精度を誇る。

 しかし、彼女の【星読】は他の者と違っていた。

 ――星の「吉凶」だけでなく、「落下地点」まで視える。

 それは、誰にも言っていない秘密だった。

 カイルはリナの隣に腰を下ろし、肩を並べた。

「また、変な予感でもしてる?」

「……うん」

 リナは小さく頷いた。

 胸の奥で、冷たい何かが蠢いている。

 それは、星読みの血が告げる「警告」だった。

 ――視てはいけないものを見てしまった。

 夜空の奥、星屑の群れの向こう。

 一際大きく、赤く輝く星があった。

 他の流れ星とは違う。

 ゆっくりと、しかし確実に、こちらへ向かって落ちてくる。

 【星読】のスキルが、数字を刻み込む。

 ――落下まで、七年。

 ――落下地点、ルナ・フォルテを中心とした半径三百キロ。

 大陸の三分の一が消える。

「……カイル」

 リナの声が震えた。

「どうした?」

「もし……もし、星が本当に落ちたら……」

「はは、冗談きついな。星が落ちるなんて、昔話だろ」

 カイルは笑った。

 だが、リナは笑えなかった。

 翌朝――

 村の長老会議は、騒然としていた。

「七年後に星が落ちるだと? ふざけるな!」

「星読みの失敗だ! 見習いの戯言を信じろと言うのか!」

 リナは、広間の中央に立たされていた。

 古びた石の床に、星の軌跡が描かれた円陣。

 その中心で、彼女は告げた。

「――私は、視ました。星は、確実にここへ落ちます」

 長老の一人、老女の星読み師・マルタが立ち上がる。

「リナ。お前の【星読】は確かに優れている。だが、これは違う。

 星が落ちるなど、千年に一度の災厄だ。

 しかも、落下地点まで視えるなど……そんなスキルは存在しない」

「でも、私は――」

「黙れ!」

 怒号が響いた。

「村の平和を乱す者は、去れ!」

 ――追放。

 リナに与えられたのは、三日分の食料と、古びた外套だけだった。

 村の門の前。

 カイルが、息を切らして駆けつけた。

「リナ! 待ってくれ!」

「……カイル」

「俺も行く。一緒に、王都へ」

 リナは首を振った。

「だめ。あなたには、鍛冶屋の仕事があるでしょう?」

「関係ない。――お前がいなきゃ、俺は……」

 カイルは言葉を詰まらせた。

 頬が赤い。

 昔から、リナの前ではこうなる。

 ――言えない。

 ――「お前が好きだ」と。

 カイルは、短剣を差し出した。

「俺が打った、最初で最後の傑作だ」

 リナは、それを受け取った。

 柄には、小さな星の刻印。

 カイルの想いも、きっとそこに込められている。

「……ありがとう」

 二人は、村を後にした。

 背後で、ルナ・フォルテの鐘が鳴る。

 別れの音色。

 ――その時、リナはまだ知らなかった。

 村の古い蔵に眠る、一枚の羊皮紙。

 そこに記された、百年前の真実。

『竜王アステルは、星を穿った。

 だが、星の守護者に殺された。

 その血は、星読みの娘に受け継がれた――』

 風が、二人を王都へと運んでいく。

 夜空には、変わらぬ流れ星。

 だが、その奥に、赤い星が、一際大きく輝いていた。

 ――七年後、世界は終わる。

 その終焉を、止めるために。

(第1話 了)


第2話へ続く

「王都で待つ、禁断の真実と、竜の血脈――」

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