第29話 逆転の一手
脳天まで貫く強烈な痛みにモータル・ブルはその場でのたうち回り、剣を引き抜いたライディはクレナの目の前に降り立った。
「お兄ちゃん! 良かった・・・・・・」
「悪い、心配掛けたな」
思わず駆け寄り抱きつくクレナの頭に手を軽く乗せ宥めるライディ、少し遅れてシルトア達も走り寄る。
「ライディ、生きてやがったかこの野郎!」
「はっ! それがリーダーの言葉かよ!」
疲れを隠せない表情の中でも軽口を飛ばし笑い合う2人、見たところ衣服や防具は破れているが大きな傷は見て取れなかった。
するとライディはシルトアへと視線を向ける、一瞬また何か言われるのかと身構えていたがその心配は杞憂となる。
「俺がやられてる間よく持たせたな。 助かったぜ、シルトア」
「! あぁ、そっちこそ無事で良かった」
初めてシルトアの名前を呼んだライディ、その声には確かな信頼が込められていた。
「お兄ちゃん、あいつにやられた傷はどうしたの?」
「ん? あぁ、そりゃあこいつのおかげさ」
抱きついていたクレナが少し身を離し尋ねると、ライディは受け答えしつつ空のポーション瓶を取り出すと何があったのかを話し始める。
数分前。
クレナを庇ってモータル・ブルの一撃を受けたライディは、枝木に身体を裂かれながら森の奥へと吹き飛ばされた。
「あがっ!」
どれほど飛ばされたのかは分からない、だが身体が巨木へと激突することで何とか止まることが出来たのである。
(くそっ・・・・・・ クレナの奴、無事だといいが)
ライディは灼けるような痛みが走る胸元へと手を伸ばすと生暖かい感覚が手のひらを伝う。
(急いでポーションを・・・・・・ っ!)
緊急用のポーションを使う為に懐へと手を伸ばすライディ、だがそこに残るのは割れたガラス片のみで中身の液体は既に漏れ落ちていた。
「こんなところで、終わりかよ・・・・・・」
そう悟り始めていた時、視界の端で月明かりに照らされ輝く何かが写る。
(!? あれは!)
そこに居たのは1週間ほど前から行方不明だった水円陣の冒険者達、その亡き骸だった。
そして木にもたれ掛かりつつ息絶えた冒険者の手には、月明かりを反射し輝くポーションが握られていたのである。
(あの盾に服装、そうか。 行方が分からなかったっていう水円陣の・・・・・・ すまねぇ、悪いが使わせてもらうぞ!)
ライディは這いずりながら近づき、何とかポーションを手に取るとそのまま患部へと流し掛けた。
「ぐっ・・・・・・!」
生傷に直接薬を掛けるのはかなり染みるが今は気にしていられない。
「はぁ・・・・・・ よし」
荒い呼吸を繰り返していると次第に傷口を薄皮が覆い、何とか塞がってくれた。
突き立てた剣を支えに立ち上がったライディは水円陣の冒険者達へと身体を向けると、瞳を閉じて深く頭を下げる。
(すまない。 もうしばらく、待っててくれ)
そして目を見開きライディは再び戦いの場へと駆け出した。
そして現在。
「水円陣の冒険者が居なかったら俺はあそこでくたばってたかもしれねぇ・・・・・・」
「そうか・・・・・・ 彼らに、感謝だな」
ライディの言葉に噛み締めるように口を開くダリアリ、しかし今は故人への弔いをしている余裕はない。
「再開のところ水を差すようで申し訳無いですが、モータル・ブルの姿をご覧下さい」
耳に届くラルクの言葉に従い視線を移す一同。
するとそこには今も傷口から血を垂れ流し続けるモータル・ブルの姿があった。
「なっ!? 再生、出来ないのか・・・・・・ ?」
「というより様子が変だぞ!」
驚愕するダリアリに続いて様子の変化に気付いたシルトアが思わず声を上げる。
その言葉の通り今までの暴れぶりとは打って変わって、小刻みに震え出したかと思えば低い唸り声を響かせ始めるモータル・ブル。
身体の芯を揺するような得体の知れない悪寒、その中でシルトアが思考を巡らしていたその時だった。
(もう回復も出来ないほど疲れてる、って雰囲気じゃないなこれは・・・・・・)
「シト、警告します。 核の魔物の肉体が自壊を始めています」
「!? ラナ、どいうことだ!」
唐突に頭に響く声とその内容にシルトアは思わず聞き返すと、ラナは声色を変えることなく淡々と説明を始める。
「回答、モータル・ブルは自身の許容量を超えた瘴気を抑えられなくなり暴走しています。 対処を急がねば数分後には崩壊し広範囲が瘴気に汚染されてしまいます」
「そん、なっ・・・・・・」
その直後、ラナの言葉の通りモータル・ブルに明らかな異変が現れた。
赤紫色の痣がヒビとなり全身を蝕んでいき、強力な蒸気の風がシルトア達に降り注ぐ。
「この野郎、まだ何か隠してやがったのか・・・・・・」
「もう片方の目も潰されねぇと分からねぇみたいだな」
ダリアリとライディは力んだ傍から力が抜けていく程消耗した腕に鞭を打って剣を構えるが、その2人をラルクが止めにかかる。
「待ってください! 今のあなた達を前線に立たせる訳には行きません」
「どういう意味だよ!」
その言葉に突っかかるライディだったが、ラルクは動じることなく冷静に状況を言葉にした。
「ライディさん、あなたは回復したと言いましたがその様子を見るに傷が塞がっただけで中の骨や臓器は回復していませんよね?」
「! ・・・・・・ あぁ」
「お兄ちゃん・・・・・・」
図星を突かれて黙り込んでしまうライディに対し心配の声を漏らすクレナ。
「そしてダリアリさん、あなたは先の戦闘でもう体力の限界をとうに越えている筈。 違いますか?」
「・・・・・・ だが! 前衛の俺らがやらねぇで誰が!」
4人がモータル・ブルへと警戒しつつ口論を続ける中、シルトアは思考を巡らしていた。
(倒すにしても前衛の2人はもう限界、となれば・・・・・・)
「ラナ、俺に直ぐに退避するよう言わないってことは何か手があるんだよな?」
「! ・・・・・・ ですが、この手段の使用は今は勧められ──」
「聞くのは一つだけだ、それを使えば今の俺でも周りに被害を出さずにあいつを倒せるか?」
シルトアの言葉に一瞬驚いたような声を漏らし口早に話すラナだったが、全てを言い切る前にシルトアは逃げ道を塞ぐ。
「・・・・・・ はい、肯定します。 この手段を用いればシトが望む結果が得られると・・・・・・ 保証します」
「それだけ分かれば充分だ」
するとシルトアは何かを決心し、口論を続ける全員に向けて声を掛ける。
「ここは一度帰還し体制を建て直しましょう、私が殿を──」
「いえ、先生は本陣に戻る皆を守っていてください」
「シルトア、何を・・・・・・ っ!」
全員の視線を受け止めるシルトア、彼は己を奮い立たせ固く拳を握り込み口を開く。
「俺が、あいつを仕留めます」
そしてモータル・ブルが放つ怪しげな光に照らされ浮かぶシルトアの表情には、確かな覚悟と強い決意が込められていた。
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