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第28話 急場凌ぎ

「お兄ちゃん!!!!」

「駄目だクレナ! 今は行くな、冷静になれ!」


目を見開き叫ぶクレナをダリアリが止める、本当なら今すぐ駆け寄りたい。

だがそれを目前に立つ異形の存在が許してくれる訳がない。


「! 了、解・・・・・・」


クレナは何とか冷静さを取り戻し無理やり飲下すようにそう呟いた。


互いを睨み合う中、核の魔物の様子を観察していたラルクが思わず口を開く。


「あれは、本当にボイリング・ブルなのでしょうか・・・・・・」

「先生? 一体どういう──」

「話は後だ! 来るぞ!!!」


ラルクの言葉が気になるが今はダリアリの指示が最優先。

全員が後ろへ跳躍すると先程までシルトア達が居た場所に核の魔物が頭突きを打ち込む。


その後も魔物は止まることなくダリアリに向かって襲いかかった。

横薙ぎに振るう凶悪な角を大剣で受け流すものの、先程までとは比べ物にならない威力に腕全体が痺れ固まる。


「ぐっ・・・・・・!!」


(このままだとダリさんが持たない!)


「こっちを向け、デカブツ!!」


シルトアは駆けながらも正確な狙いで右腕の盾を投げ放つが、横腹にぶつかる寸前の所で魔物は大きく飛び上がることでこれを回避した。


「!? なんだよその反射神経!」


土埃を巻き上げながら着地した核の魔物はシルトアを見据え、蹄で地を打ち鳴らす。


「シルトア! 突進が来ます!」

「はい!!」


ラルクの声掛けに盾を呼び戻したシルトアは再び構えると、異様な雰囲気を感じさせる魔物に対して持てる力全てを込めて踏ん張る。


が、しかし。


「なっ!?」


桁違いだった、今までの突進とは違い正しく目にも止まらぬ速さで飛んできたのだ。

身体に走る衝撃は芯まで響き、踏ん張る足は地面から浮かび上がる。

そして次の瞬間、突進の勢いを抑えきれずシルトアの身体は吹き飛ばされた。


木の幹に衝突する直前に何とか姿勢を建て直したシルトアは、足裏からぶつかる事で衝撃を流し着地する。


(今のは・・・・・・)


「悪い、助かったラナ」

「当然のことです。 しかし感謝ということなら私の頭を撫でてください」

「分かった、後でな」


自然と姿勢が安定した感覚にシルトアはラナの支援によるものだと気付き感謝を口にする。

それに対しちゃっかりと報酬を望むあたり逞しいと言えるかもしれない。


言質を取る事に成功したラナは続けてシルトアにある情報を伝える。


「そしてもう一点。 シト、あの魔物の解析が完了しました」

「!? いつの間に・・・・・・ とりあえず聞かせてくれ」

「了承、あの魔物の内部からは本来の許容量を大きく超える量の瘴気が蒸気となって溢れだしています。 恐らくは何らかの経緯で瘴気を大量に取り込むことで突然変異した個体と推測します」


「突然変異・・・・・・!?」


そう呟くシルトアの言葉に反応を見せたのはラルクだった。


「シルトア、あなたも気付きましたか?」

「え? あぁ・・・・・・ はい」


気付いたのはラナだが一先ず話を合わせるシルトア、するとラルクは記憶を探るように話し始める。


「本部に上がった報告の中で見た事があります。 とある国で異質な魔物が目撃されたという話を」

「異質な・・・・・・ 魔物?」

「公表はまだですが、ボイリング・ブルに似た魔物の存在が目撃されたそうなのです。 脅威度が高く最終的にはメイガスに依頼することで討滅したと」


汗滲む苦い顔で話すラルク、彼は最後にこう締めくくった。


「本部はその脅威度の高さを加味し、暫定で呼称名を付けました。 その名は"モータル・ブル"」

「モータル・ブル・・・・・・ それが、こいつなのか?」

「恐らくは、そうでしょう」


唖然としながら呟くダリアリ。

眼前に立ちこちらを見下ろす巨体、放たれる威圧感はその体躯を実際の数倍大きく錯覚してしまう程だった。


「先生、その情報の中に弱点とかは?」

「残念ながら、まともな交戦記録は何処にも・・・・・・」


「はっ! つまりは戦いながら学ぶしかねぇってことだな。 上等だ、やるぞクレナ!!」

「はい! 早くお兄ちゃんを助けにいかないとですから!!」


合図と共に2人は駆け出すと、モータル・ブルは地面に角を突き立て力任せに砕いた地面を投げ飛ばし迎え撃つ。

弾幕のように飛んでくる礫だが、ダリアリとクレナはまるで地面を滑るかのような身のこなしで速度を落とすことなく回避していく。


そして懐にまで潜り込むと、クレナは踏みつけようとしてくるモータル・ブルの足の間をすり抜けながら立て続けに矢を撃ち込んだ。


僅かに怯んだことで生まれた隙を逃すまいと続けてダリアリは前脚、腹、後脚と流れるように灼熱の大剣で斬り裂く。


「シルトア、私たちも行きますよ!」

「はい!!」


そこに遅れてシルトア達も続きラルクはウルミを振り抜き刃をしならせると、無数の残像を残しながらモータル・ブルの全身を切り刻んだ。


堪らず唸り声を上げるモータル・ブルは目前に迫ったシルトアに向けて頭突きを仕掛けるが、先程の突進に比べれば弱く片腕の盾だけで受け止めて見せる。


「俺が抑える! 今の内に!!」


そして頭突きを防いだシルトアは、空いている盾を駆使しモータル・ブルの角を挟み込むことで動きを抑え声を張り上げた。


「上出来です!」


その言葉に真っ先に返したラルクはモータルブルの背後に回り込むと、大きく飛び上がり上段に構えた腕を思い切り振り下ろす。

すると鞭のように振るわれたウルミの先端は実際にラルクが振った速度の何十倍にも膨れ上がり肉質の柔らかい臀部の肉を削ぎ落とした。


深く入った裂傷からは大量の血が吹き上がりモータル・ブルは痛みに悶えシルトアの拘束を振りほどくと、仕返しとばかりにラルク目掛けて尾を振り回す。

ラルクは身体を反ることで直撃を免れたが、その余波に頬を割かれ風圧で押し飛ばされてしまう。


「くっ! 掠っただけでこれ程とは」


追い討ちをかけるように斬り掛かるダリアリだったが、モータル・ブルは太刀筋を見切りカウンターを返すように蹄でダリアリを突き飛ばした。


「がっ! あの傷で何故そこまで動ける・・・・・・ !!」


そう言いながら衝撃に揺れる脳を叩き起こすダリアリが赤く染まった視界をモータル・ブルに向けると、大量の血を吹き上げていた裂傷は既に赤紫色の痣によって塞がれていた。


「そんな・・・・・・」


余りにも早い回復に絶句するクレナ、その彼女が与えたはずの矢傷はもう跡すら残っていない。


想像を絶する回復力に機動力、そして攻撃力。

4人の顔には焦燥の色が浮かび上がり、それを見たモータル・ブルは勝ち誇るような雄叫びを轟かせた。


「野郎、勝った気でいやがる・・・・・・ 舐めんな!!」

「ダリさん! 俺も!!」


額から流れる血を拭い立ち上がったダリアリは声を張り上げて駆け出す。

それに合わせてシルトアも並走し2人は同時にモータル・ブルへと突っ込んだ。


ゴミを払うように力任せに振るわれる角をシルトアは両腕で受け止め、持てる力全てを込めて弾き上げる。

剥き出しになった腹、そこ目掛けて差し迫るダリアリは己の大剣を背中に構えていた。


「リーダー、これを!!」


後方から響く声、その主はクレナ。

彼女が2本同時に射放った油瓶の矢はダリアリが背に構えた大剣に命中し、割れた中身と混ざり合って荒れ狂う業火を生み出した。


その姿を捉え危機感を感じたモータル・ブルは浮いた身体でダリアリを押し潰しにかかる。

しかし蹄の先が届くその寸前、喉元に何かが巻き付いた。


「させません、絶対に!! ・・・・・・ くっ!」


ラルクである、モータル・ブルの首にウルミを巻き付け文字通り引き付けている。

柄を握る手には血が滲み背を向け肩に刀身を掛けることで、より踏ん張れるようにしているがその肩には刀身が半ば食い込んでいた。


全員が残る力を振り絞って生み出したこの一瞬、ダリアリは討伐隊の5人、そして今尚奮戦する冒険者達の思いを一身に受け止め拳を握る。


「これで終いだぁ!!!!」


そして激しく燃え上がる大剣の切っ先に全ての力を込め、ダリアリはモータル・ブルの心臓目掛けて刺し貫いた。











全員が確かな手応えを感じていた。

だが呻き声は上げどその巨体が崩れることは無かった。


直後、耳を劈く咆哮に思わず全員の陣形が崩れる。


今の一撃が余程頭に来たのだろうか、モータル・ブルは前脚を持ち上げると力強く地面に打ち付けた。


瞬間、地面は唸り衝撃の波となってシルトア達の脚を大きく揺らす。

シルトア、ダリアリ、ラルクの3人は己の武器を支えに使うことで耐え忍ぶのだが。



一人、己を支えるものがないクレナはバランスを保てず倒れてしまった。



するとモータル・ブルは待っていたと言わんばかりにクレナに目を付けゆっくりと歩み寄る。

地面を揺らす衝撃は未だに収まらず、助けに行こうにも立ち上がることすら叶わない。


「クレナ!!」

「クレナさん、逃げて!!!」


そう口にしたが出来る筈がなかった。

自分達が動けないのだ、支えがないクレナであれば尚のことだろう。



そしてクレナの目の前にまで迫ったモータル・ブルは涎を垂らしながら牙を剥き出しに口を開く。



「はっ・・・・・・! はっ・・・・・・ !」



呼吸と心臓の鼓動がちぐはぐになり、視界の端が暗くなる。

震える喉と舌で彼女が叫んだ言葉は酷くか細いものだった。






「お兄ちゃん、助けて・・・・・・!!!」






時間が酷く遅く感じる、狭まる視界を魔物の口が埋めつくしたその瞬間。












突如として視界は開け星空が広がった。

そしてその中心にいたのは。





「俺の妹に、何してんだよ・・・・・・!!!」





モータル・ブルの左目を刺し穿つ、鬼気迫る形相のライディの姿だった。




















ここまでお読みいただきありがとうございます!


・面白かった!

・続きが気になる…!

・取り敢えず良かった!


と思えば是非とも☆評価をお願いいたします。

何よりの励みになりますし今後の活力となります!!


どうぞよろしくお願いいたします。

それでは次の話でお会いしましょう!

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