第2話 奇抜な贈り物
シルトアは敬称で呼ぶがその口調に敬意のようなものは薄く、さながらお節介な親族と話すようにシルトアは声を漏らす。
「いたとはなんだシルトア! 冷てぇなぁ、小さい頃はお前もミルニアも目が合えば直ぐに近寄って抱きついて来るくらい素直で可愛かったのに・・・・・・」
「「やめろぉ!」 」
シルトアと思わぬ飛び火を喰らったミルニアは顔を赤くしながら男の口を塞ごうと手を伸ばすがいくら伸ばしても口元には届かない。
その様子を見て大声で笑う厳つい外見とは真反対に明るい性格をしたこの男の名はヴラド・カーリル。
苗字の通りミルニアの実父であり、この大男こそがこのギルドを纏める存在"ギルドマスター"である。
ひとしきり騒ぐとヴラドは話題を戻して話し始めた。
ミルニアはまだ怒っているのか腕を組みながらヴラドを睨んでいたが当の本人はまるで気にしていない様子。
「それで何に俺の許可がいるって?」
「あぁ、ミルも含めて皆が俺にアーティファクトを手に入れられるよう探索クエストの枠を取っといたなんて言い出してさ。 父親のあんたからも何か言ってやってくれ・・・・・・」
シルトアは少し申し訳なさそうに目線を下げながらヴラドに一連の出来事を伝える。
皆の気持ちがありがたいことは事実だが、国が依頼したクエストをギルドマスターの許可無く私的に使うなんてことはさせたくなかったのだ。
──ん? 10秒程待ってもまるで返事が来ない。
何がそんなに引っかかったのかと思いながらシルトアは目線をヴラドの顔に向けてみると。
ニヤけている・・・・・・
何がそんなに嬉しいのか分からないがヴラドはニヤけていた。
獅子の鬣を思わせる髭を歪ませながらニヤけてる姿は正直気味が悪い。
その直後ヴラドから上がったのは先程よりも大きな笑い声だった。
間近で聞けば鼓膜が持ってかれそうな勢いだが、気付けばそれに負けないくらい周りにいた冒険者達も笑い声を上げていたのである。
その様子を見たシルトアにじわじわとある予想が浮かんでくる、『まさか!?』そんな言葉がハッキリと脳内に響きその疑念は確信へと変わっていった。
実はこのヴラドという男、性格の通り楽しそうな出来事には目がないことでギルドでは有名なのだ。
街中の酒場の酒全てを一晩で制覇し、国を守る騎士団に乗り込んだかと思えば新兵に訓練と称しあれこれ吹き込んだり等々。
とにかく大の悪戯好きであり道楽好きなのである。
そんな男が遺跡探索のクエストへの参加を唐突に伝え、驚かすなんていう"楽しそうな事"を見逃す筈がない。
それどころか周りの様子から見て、この騒ぎの首謀者こそが。
「おい、もしかして・・・・・・」
顔を引き攣らせながら問いかけるシルトアに対しヴラドは満面の笑みで答える。
「勿論、俺が全部企画した!!!」
「やっぱり、あんたかぁぁぁぁ!!!!?」
サプライズが成功した事を祝うように増す笑い声に対し、シルトアは両手で頭を抱えることとなった。
──しばらくした後。
騒ぎも落ち着きシルトア、ヴラド、ミルニアの3人は丸形のテーブルを囲むように座っていた。
「まさかギルドぐるみでこんな大規模なクエスト斡旋を仕掛けてくるとは・・・・・・」
テーブルに突っ伏したまま籠った声で話すシルトアの声色はまだ朝だと言うのに疲れ切っていた。
「何よ、せっかくクエストの用意してあげたのに不満でもあるの?」
「物事の伝え方って知ってる?」
組んだ腕に軽く乗った胸を反らしながら偉そうな口調で話しかけるミルニアに対し、顔を上げたシルトアは頭を抑えながら口を開いた。
だが正直な所シルトアの胸中には確かな嬉しさがあった。
まず受けることの出来ないであろう遺跡の探索クエストの参加枠を用意してくれたというのだから嬉しいに決まっている。
しかしシルトアにはどうしても飲み込めない点がひとつあった。
「そもそも何でこんなことしたんだ? クエストの件はそりゃ嬉しいけど、何で皆がここまでやってくれたのかが分からないんだが・・・・・・」
その言葉を聞いたミルニアは少し驚いたような顔をすると直ぐにシルトアの疑問に答える。
「なんでって、あんたが昔からアーティファクトに夢中でその為に冒険者になったことなんて皆知ってるからよ」
──言葉が出なかった、『何を当たり前のことを聞くのか』そう言いたげな声であっさりと言われてしまったのである。
辺りを見回すと皆が笑顔を浮かべている、彼女達はたったそれだけの理由でここまでのことをしてくれたのだ。
「お前がまだ子犬ぐらいのガキだった頃からここにいるやつはみんな分かってることだろ」
するとヴラドが懐かしむように口を開く。
「最初はガキの遊びだと思ったが、冒険者でもねぇのに毎日ギルドにやってきては戦い方や魔物について日が暮れるまで聞いて周りやがって。 いつしか全員が息子のように可愛がるようになったもんだ」
「・・・・・・」
ヴラドの言葉にシルトアは目頭の奥が徐々に熱くなっていくのを感じていた。
「そいつが夢見る大舞台が見つかったとありゃもう満場一致の賛成だったな!! そもそも今回のサプライズ、言い出したのはミルニアだしな」
「え・・・・・・?」
ヴラドは先程までのしんみりとした口調から打って変わって笑うように話し、シルトアが気の抜けた声を上げているとミルニアが顔を真っ赤にして立ち上がった。
「ちょっとパパ!? 何でそんなことわざわざコイツの前で!! 言っとくけどただ昔からのよしみでってだけだからね!!」
「そ、それはどうも・・・・・・」
シルトアが返事をするとミルニアは勢いよく座り直すと、赤くなった頬を隠すようにグラスに口をつける。
(恵まれてるな、俺は・・・・・・)
シルトアはまだ自分が子どもだった頃このギルドの冒険者や職員、ヴラドに面倒を見てもらいミルニアとよく遊んでいたことを思い出し静かに笑みを浮かべる。
そしてグラスの水を飲み干し勢いよく置いたシルトアは、誰にでも聞き取れるよう立ち上がり答えを出す。
「分かった! 今回皆が俺の為に用意してくれたこのクエスト、有難く受けさせてもらう!!!」
その言葉にその場にいた全員が安堵と喜びに満ちた声をギルド中に響かせ、その騒ぎ声は近隣の住民に何事かと思わせるほどであった。
──首都テルセリア 大通り
ギルドでの騒ぎを終えシルトアは手頃なクエストを受けようとしたのだが『探索は明日からだから今日は準備に充てなさい!』とミルニアに釘を刺されてしまった。
その為シルトアはギルドで防具の点検を済ませると、回復薬となるポーションと糧食を幾つか購入しそのまま帰路に就いていたのである。
あの後ヴラドから聞いたことだが、遺跡の探索は国から依頼されるものの期限も無ければ人員や日程の管理等はギルドに一任されているそうだ。
だからといってそれをサプライズに使うなんて騎士団なぞが聞けば呆れてしまうだろうが。
やることを終えて家に到着する頃にはすっかり日が暮れ、空は赤く染っていた。
シルトアは帰宅すると革製の防具と剣を自室の机に置き、寝間着を取ろうとクローゼットを開く。
その時シルトアの目に留まったのはクローゼットの端に隠れた錆色のグレートコートだった。
年季が入ったそれは至る所が黒く焦げ付き、裾には焼け跡が残っている。
シルトアはそんなコートの袖を指で擦りながら噛み締めるように。
(まだ俺には早いか・・・・・・)
そう心の中で静かに呟き、着替えを取るとクローゼット戸をゆっくりと閉めたのだった。
簡単に夕食を済ませたシルトアはベッドに寝転がり枕元の本を手に取る。
"アーティファクト"
その印字が窓から射す夕陽に照らされ輝いたように見えた。
遂に明日、遺跡に潜る。
命を失う可能性も何も見つからない可能性だってある以上、もっと緊張感を持って望むべきなのだろう。
それは分かっている、それなのにどうしてだろうか?
この顔が笑顔に染まってしまうことを止められないのは。
「父さん、先生。 遂に来たよ、この時が・・・・・・」
高鳴る心臓に本を押し当て、シルトアはゆっくりと時間を掛けて眠りに落ちるのだった。
──翌朝。
日の出と共に鳴り響く朝の鐘の音にシルトアは目を覚ます。
まだ眠気の残る顔を冷水で洗い流すと寝惚けた意識と視界が開ける。
朝食を済ませて防具と剣を身に付け、荷物を詰めた鞄を手に家の扉をを勢いよく開いた。
顔を照らす朝日に目を狭めることはない、確かな意志を込めた声と共に足を踏み出す。
「よし、行くか!」
青年の名はシルトア・ウークリエ。
古代遺跡に挑む、英雄に憧れた一人の冒険者である。
第2話お読みいただきありがとうございました!!
・面白かった!
・続きが気になる…!
・取り敢えず良かった!
と思えば是非とも☆評価をお願いいたします。
何よりの励みになりますし今後の活力となります!!
夢見る舞台に挑むこととなったシルトア、彼が望むアーティファクトを手に入るのか! というところで次回に続きます。
そしてシルトアの本名も判明しました。
シルトア・ウークリエ、この名前を決めるのにも時間が掛かりました。
どうぞこれからどのような物語が展開されていくのか
お楽しみに!
そして第1話をお読みいただきありがとうございました!
投稿者はこれが初作品となる為投稿の瞬間ドキドキが止まりませんでした…
活動報告にて詳しい感想は載せているのでそちらも確認いただければ幸いです!
それでは明日、第3話にてお会いしましょう!




