第27話 核の魔物
鼻息荒く睨みを利かせるボイリング・ブル、それに相対するは5人の冒険者。
ダリアリの位置にまで飛び下がったライディは共に武器を構え、そこにシルトアとラルクが駆け込み最後列でクレナが弓を引き絞る。
一見冷静を保っているように見えるが、内心では突然の奇襲に動揺していた。
群れを形成する魔物とは言え、地下に潜伏し奇襲を行える程の知能があるとは思いもよらなかったのだ。
(なんて、今は考えてる場合じゃねぇよな)
「お前ら手筈通りに行くぞ! 俺とライディを前衛に後衛をクレナ! ラルクさんは支援を。 そして兄ちゃん、突進が来た時はお前さんの出番だ」
「! あぁ・・・・・・!」
シルトアは疑問に感じたもののダリアリが即座に指示を飛ばしたことですぐに気持ちを切替える。
双方が互いを睨み合い、緊張に口が乾く。
そして風に揺れる木々のざわめきが静まり返った時、それは開戦の合図となった。
「まずは俺からだ!」
意気込んだライディは地を蹴るとすぐさまボイリング・ブルの懐に潜り込み、そのまますり抜けざまに後脚を斬り付ける。
「はっ、ノロマが!」
そこに間髪入れずダリアリが突っ込むと、迎撃しようと前脚を上げ踏みつけにかかるボイリング・ブル。
血に汚れた蹄が鼻先に触れるすんでのところでダリアリは身を翻し、その巨体の側面に刃を突き立て斬り裂いた。
「くっ、思ったよりも浅いか・・・・・・ っ!」
直後ダリアリに向けて狙いを付けるボイリング・ブル、しかしそれを邪魔するように飛来する矢が首元の肉に食い込んだ。
「ふぅ・・・・・・!!」
続けて狙いを定めるクレナ、するとボイリング・ブルが咆哮を轟かせ蹄を地面に深く打ち付ける。
「! 突進が来ます!!」
「っ!」
後脚の筋肉が盛り上がり血管が浮き上がる、ラルクはその様子からボイリング・ブルが突進を仕掛けようとしていることを判断し大声を飛ばした。
「任せろ!!」
即座に皆が距離を取る中シルトアはボイリング・ブルの前へと躍り出ると、両腕の盾を合わせて地面に打ち据える。
「ラナ! あの時ほど濃くなくていい、奴の狙いだけ俺に向けてくれ!!」
「了承、濃度を調整します」
「さぁ来いデカブツ、狂い喰み!!!」
その掛け声と共に盾の排気口が開くと、ほんの僅かに赤みがかった煙が吹き出し眼前の魔物を包み込んだ。
すると狙い通りボイリング・ブルは突進の狙いをシルトアに見定め、それを確認したシルトアも腰を落とし構える。
そして蹄を打ち据えた地面がひび割れたその瞬間であった。
ボイリング・ブルは1秒と掛からずシルトアの眼前にまで迫ると、直後両腕に衝撃が走る。
おおよそ突進の音とは思えない耳が割れそうになるほどの轟音、盾越しに伝わる衝撃に骨が軋み肩が痺れる。
「お、重っ!! ・・・・・・ぐ、るぁあ!!」
余りの重さに耐えかねたシルトアは盾を持ち上げると、手前側に傾けることで突進の勢いを上に逸らし弾き飛ばす。
そして一歩下がると足に力を込め、弾かれたことで晒されたボイリング・ブルの腹部に盾を打ち込んだ。
その痛みにボイリング・ブルは唾液を吹き出すと地を揺らしながら転がり倒れる。
「はぁ・・・・・・ 第1波の大群よりも今の一撃の方が、よっぽど重かったぞ・・・・・・」
だが、防げた。
まともに受け止めることなど不可能と思われていたボイリング・ブルの突進を、シルトアは受けて見せたのだ。
その様子を見ていた4人は目を見開き固唾を飲み込む。
「マジか・・・・・・ あいつ、本当に止めやがった」
「凄まじい・・・・・・ あれがシルトアのアーティファクトの力なのですね」
驚嘆するライディとラルク、思わず漏れ出る声は高揚感に震えていた。
「やったな兄ちゃん!」
「あぁ、だが完璧にとはいかなかった・・・・・・」
シルトアの元へ駆け寄り肩を叩くダリアリだったが、シルトアとしては完全に受け止めきれなかったことに不満が残る様子。
「何言ってんだよ、あの突進を正面から受けて凌いだんだ。 少しは自分に自信を持ちな」
「あ、あぁ・・・・・・」
「さぁ、こっからが本番だ。 ライディ、クレナ! やるぞ!!」
シルトアを励ますとダリアリはライディとクレナに声を掛け、バーンウルフの群れを相手取った時と同じようにそれぞれの武器に炎を灯す。
放たれる矢と共にダリアリとライディが駆け出すとボイリング・ブルは暴れるように角を振るい猛攻を仕掛けた。
2人は剣でいなしつつも着実に間合いを詰めていき、攻撃の合間を読み両側面を同時に斬りつける。
瞬間、切り口から燃え広がりボイリング・ブルの全身を炎が焼き喰らう。
「私もいることをお忘れなく、猛牛さん?」
そう口にしながら腰に巻いたウルミを引き抜き、しなる斬撃で脚の付け根や関節を的確に狙い追撃をかけるラルク。
そして苦し紛れに放った突進攻撃はシルトアが防ぐことで戦いは有利に進んでいった。
戦闘開始から十数分、表皮は流れる血すらも焼け焦げる程に傷付き、不規則に繰り返される呼吸がボイリング・ブルの限界が近いことを知らせていた。
「はぁ・・・・・・ これで終いにしてやるよ!!」
無論消耗しているのはシルトア達とて例外では無い、ライディは肩で息をしながらも残る力を腕に込め踏み込む。
他の者も同様に次で終わらせようと握る拳に力を込め一斉に駆け出す。
その時だった、突如ボイリング・ブルがこれまでとは比較にならぬほどの咆哮を上げたのだ。
まるで己の喉を潰し切らんばかりの叫びにシルトア達は思わず耳を塞ぎ後ずさる。
「何だ! 断末魔にしちゃ妙だぞ!?」
「ダリさん? 何だって!」
予想外の事態にダリアリは声を上げるが耳を劈く咆哮が邪魔をして何一つ聞き取れない、すると今度はボイリング・ブルの"肉体"そのものに異変が生じた。
咆哮が止んだかと思えば低く唸り始め、傷口から赤紫色の痣が浮かび上がり傷を塞ぐように広がっていく。
膨れ上がった筋肉には脈打つ血管が巡り、全身から妖しげな蒸気のようなものが揺らめき立つ。
そして今まで黒く濁っていた瞳孔は鮮血よりも色濃い紅に輝いていた。
「こいつは・・・・・・ 一体?」
回復しただけならまだしも、眼前のボイリング・ブルの形をした物はその程度で済みそうにない。
蠢く痣に胎動する筋肉、そして不気味に輝く真紅の瞳。
まるで中身だけが別の存在になってしまったような・・・・・・
その直後だった、全員が目前に立つ異形の存在を注視していたその時。
「!?」
消えたのだ、目の前から忽然と。
目を離した訳でも瞬きをした訳でもない、5人全員が目を向けていたのにも関わらず誰にも捉えられずに消えた。
そして再び認識できた時には、既に自分達の背後に回り込まれていた後だった。
「・・・・・・ え?」
「クレナ!!!」
瞬間、ライディは持てる全ての力を足に込めて地面を蹴り上げる。
その目が捉えたのはクレナ目掛けて尾を鞭のようにしならせ高速で振り降ろす奴の姿。
突然の事態に動くのが遅れたクレナだったが、尾に触れる直前にライディによって突き飛ばされ軌道から逸れることが出来た。
しかし。
「がっ・・・・・・ !」
身代わりとなったライディに直撃した尾は緩まるどころかその勢いを増し、叩きつけた"肉"をそのまま森の奥にまで吹き飛ばしてしまう。
順調に見えた戦況はこれを機に大きく一変するのだった。
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