第26話 金等級の実力
甲高い金属音と共に納刀し柄を握り直すライディ。
一歩下がってその様子を見ていたシルトアは困惑の表情を見せる。
魔物を目前に武器をしまうという行動、何事かとダリアリの方へと目を向ければ彼は懐から革水筒を取り出していた。
(こんな時に・・・・・・?)
水筒の蓋を開けたダリアリは、その中身を己の相棒である大剣へと乱暴に浴びせかける。
「ダリさん? 一体何を・・・・・・」
「まぁ見てな」
シルトアが思わず漏らした一言にダリアリはそう返すと、大剣を地面に突き立て刀身に靴底を合わせたかと思えば勢いよく擦り下ろした。
瞬間、眩い火花が飛び散るとそれに触れた大剣が荒々しく炎を巻き上げたのである。
ライディもダリアリに続くように鞘に収めた剣を力強く引き抜くと、鞘口に仕込まれた打金が連動し剣の刀身を鳴らすことで火花が散る。
引火した剣は輝く炎をその身に纏い、振る度に火の粉が舞い踊った。
「熱っ!」
広がる熱気は一歩下がったシルトアが思わず身を引いてしまうほど熱く、燃え盛る炎を手にしながら何食わぬ顔で立ち並ぶ2人の姿には思わず息を飲む。
「さぁ覚悟しろよ魔物共! 灰になるまで切り刻んでやるよ!!」
ダリアリが咆哮を轟かせると2人は灼熱の武器を手にバーンウルフの群れに飛び込んだ。
「焼けるような痛みの毒だ? こっちはもっと熱い炎に慣れてんだよ!」
牙を剥き出しに襲い来るバーンウルフ達を相手にライディが横薙ぎに斬払うと、勢いのまま剣から放たれた炎は眼前の獲物を逃がすまいと次々に飲み込んでいく。
そしてライディの背後から力強い足音共にダリアリが飛び出すと、血管が浮く程に力強く握り締めた大剣を振り下ろした。
灼熱の炎と熱気を巻き込んだ剣圧は一直線上に魔物を焼き尽くす。
圧倒的だった、その勇猛な戦いぶりにシルトアはただただ魅入ることしか出来なかった。
「何なんだあの炎、まるで勢いが落ちない」
「それは特殊な油を使用しているからです」
シルトアがそう呟くと、気付かぬ内にすぐ後ろまで歩んできていたクレナがシルトアの疑念に答える。
「油?」
「はい、リーダーは革水筒に兄は腰に提げた鞘にその油を入れているのです」
そう言うとクレナは懐からガラス瓶を取りだしてシルトアに見せる、その中は黄色く濁った液体で満たされていた。
「この油はある植物に特殊な加工を施すことで抽出できる特注品でして、強く長く燃える優れものなのです」
「なるほどな・・・・・・」
荒々しい豪炎をまるで己の手足のように巧みに操り、魔物のみを的確に焼き斬る手腕。
それを互いに邪魔することなく、寧ろ補い合う2人の洗練された連携。
さながら踊る炎、"炎舞"といったところだろうか。
(これが金等級パーティーの力・・・・・・!)
そうしてシルトアが圧倒されている内にバーンウルフの群れは壊滅、残った数匹は生存を優先しその場から散っていった。
「ふぅ、こんなもんか。 なぁリーダー?」
「あぁ、逃げたヤツはわざわざ追わんでもいいだろう」
火の粉と熱気が渦巻く中で当然のように言葉を交わす2人の姿。
つい先程まで己自身すらも焼き尽くしかねない猛炎の中にいたとは思えない落ち着きぶり。
これこそが金等級パーティーの経験と実力というものなのだろう。
シルトアが二人に礼を伝えようとしたその時、突然ラナの声が頭に響いた。
「警告、シト達が来た方角から多数の魔物が接近中」
「!? 皆急げ! 俺らが来た方から魔物だ!」
シルトアの叫びに一息ついていた全員の表情が一変する。
「どうやら賑やかにやりすぎてしまったようですね、皆さん! 森の奥に!!」
ラルクが咄嗟の判断で奥へ進むよう声を掛けると、ダリアリも即座に判断を下した。
「クレナ! いつものやつだ頼む!」
「了解!」
すると全員が先を急ごうと走り出す中でクレナは後ろを振り返り足を止める。
「ダリさん、何を!?」
「いいんだよ、アイツだって俺ら炎刃の鞘のメンバーだからな」
ダリアリの含みのある言いようにシルトアは何かを察し足を止めずに走り続けた。
揺れる視界の中振り返ると、クレナが妙な矢を構える姿が目に映る。
彼女が手にする矢には金属ではなく栓のついたガラス玉が矢尻の代わりに付いており、その中では何やら液体が揺れていた。
(あれはさっきの!?)
そう、ダリアリとライディが使っていたあの油である。
彼女は細いロープをガラス玉の栓に括り付け矢を引き絞ると、身体を逸らし天に目掛けて射放った。
天高く登っていく矢を一切のまばたきもせずクレナは見極める。
そして矢の速度が僅かに落ちたその瞬間、伸びていたロープを掴み思い切り引き抜いた。
栓の抜かれたガラス玉は炎色に輝くと、直後に砕け散り魔物目掛けて火の雨が降り注ぐ。
迫り来る魔物達は阻む壁の如く燃え広がる炎に足を止め後ずさる、その様子を確認した後にクレナも走り出し程なくして合流した。
(完璧な足止め・・・・・・ どの高さでやればいいのかを完全に分かってるのか)
シルトアは周囲との経験の差を痛感する。
戦闘においては大して役に立てず、魔物の接近に気づいたのも自分ではなくラナであった。
(もっと、頑張らねぇと・・・・・・ !!)
「よし、大分離せただろう」
「もうかなり奥の方まで来ましたし、いつ核と遭遇してもおかしくありません。 ダリアリさん、今の内に休憩を挟みませんか?」
「だな、そうしよう」
魔物達から距離を離した討伐隊の5人はラルクからの提案により1度足を止めることにした。
シルトアは地盤が緩いのか倒れたであろう倒木を椅子替わりに腰掛ける。
ダリアリとライディが水筒の水を勢いよくあおる姿を見てシルトアは2人に疑問を投げかけた。
「やっぱり、あれだけ炎を使ってる以上は熱いのか?」
「そりゃあな、クレナは弓だからまだしも。 俺とライディは近距離で使うからな」
よく見れば2人とも額に腕にと汗が滲んでいるのが見て取れる。
「リーダーが考え無しに振り回すもんだから冷や汗も一緒にかいてるけどな」
「俺にしてみればいっつも前に出たがるお前を見て冷や汗もんだぞ?」
「2人ともやめてくださいよ、もぅ・・・・・・」
互いに睨み合いながら先程と同じような不敵な笑みを浮かべるダリアリとライディに、呆れた様子で2人を宥めるクレナ。
その様子は傍から見るとまるで親子のよう。
そんな時、ふいに目を向けた先の茂みで何かが光ったのをライディが捉えた。
「なぁ、あそこにあるのって・・・・・・」
そう呟きライディは茂みの前まで来ると、その場でしゃがみ込み手で探る。
「!? こいつは・・・・・・」
ライディが思わず眉をひそめながら引っ張り出したのはヒビの入った1枚の小盾、バックラーの類であった。
冒険者の装備がこうして見つかることは決して珍しいことではない、だがその盾の表面には茶色く変色した血液が大量にへばりついていた。
すると背後から様子を見に来たダリアリがその盾を見て目を丸くする。
「おい、そいつは水円陣のヤツらが使ってたヤツじゃねぇか?」
水円陣、1週間程前から行方が知れずつい昨日重傷の末にスタンピード発生についてヴラドに伝えた冒険者が属するパーティー。
彼らは曲剣とバックラーを用いた戦闘を得意とし、その流れるような動きはまるで弧を描く流水のようだと喩えられている。
「ってことは行方が分からなかった水円陣のメンバーがこの近くで──」
シルトアがそう口にした時、言葉に出来ない違和感を感じた。
静かだったのだ、あまりにも。
虫の音ひとつすら聞こえない。
まるでこの場を避けているかのように。
瞬間、異変を察したダリアリが叫ぶ。
「っ! ライディ、後ろに飛べ!!!」
「!!」
危険を訴える声にライディは反射的に跳び下がり、直後に地面が隆起したかと思えば巨大な塊が姿を現した。
声掛けの速さとライディ自身の反応速度によって間一髪間に合ったが、ポーションを纏めていた荷物は持っていかれ中身が割れてしまう。
「クソ! 野郎、ポーションを・・・・・・!」
回復手段を奪われたことに思わず悪態をつき唸るダリアリ。
地盤が緩かった原因は"こいつ"がシルトア達の接近に気付いた事で地面に潜っていたからであろう。
身を振り土を払い落とす筋肉質な外皮、見上げるほどの茶色い巨体。
軍船の衝角すら可愛く見える程に強く鋭く逞しい2本の角、黒く濁った瞳孔はこちらの顔を写し出す。
だがそこに写るのはあの古代遺跡の時のような絶望の顔では無い、元よりこいつを倒す為に皆覚悟を決めて来たのだ。
この聳える巨壁、ボイリング・ブルを。
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