第21話 本領発揮
ヴラドの号令で銅等級冒険者は仮説テントの外周に位置取り、シルトア含めた銀等級以上の冒険者は後衛を基点とし2列に展開。
全員で扇状に構える。
「よし! 来い魔物共!!! ってシルトア!? お前なんでここにいるんだよ!」
「何故って、俺は"銀等級"だからな!」
ビルケスの驚く声に対しシルトアはコートの内ポケットから、これ見よがしに先程手にしたばかりのギルドカードを取り出す。
「マジかよ、さてはヴラドの仕業だな?」
「ご明察」
「ったくしょうがねぇ! 足引っ張んなよ新米銀等級!」
「そっちこそ張り切りすぎて空回りしないようにな!!」
仕方ないと言いつつもどこか嬉しそうな様子のビルケスとシルトアは互いに鼓舞し合うと前方に目を向けた。
おびただしい数の魔物の鳴き声が混ざりあうことで、あたかも1つの生き物が叫び声を上げているようにも聞こえる。
そして魔物の大群が冒険者達とぶつかるその時、前衛の中心から落雷の如き轟音が炸裂し数十体の魔物が一瞬で消し飛んだ。
「遺跡の時は最後が消化不良だったからなぁ、今日は暴れるぞ!!!」
大きく抉れた地面の中心で突き立てた戦斧に足をかけ高笑いを響かせるのは我らがギルドマスター、ヴラドである。
彼は衝撃の熱に蒸気を上げる戦斧を地面から引き抜くと、肩に担ぎ不敵な笑みを浮かべた。
「そぉら、次行くぞ!!!」
そう口にしたヴラドは魔物の大群に突貫し、踏み入った所で戦斧を力任せに振り回し魔物を蹂躙する。
巻き上がる土煙の中で、魔物達は渦巻きに飲まれた小舟のように跡形もなく砕け散っていく。
「すげぇなカーリルさん、大暴れだ・・・・・・」
「聞いた話じゃあの人、冒険者時代は白等級まで登り詰めたらしいぜ?」
シルトアとビルケスは互いに連携の取れる距離を保ちながら魔物を相手取る。
身を翻しつつ魔物の頭上から盾を打ち付け、しゃがみこんだ姿勢からのシールドバッシュ。
通常この技は重装の大盾使いが相手を押し退ける技だが、シルトアの放つそれはラナの加護によって相手を纏めて吹き飛ばす突撃技のようになっていた。
一方ビルケスも今回の為に引っ張り出してきたであろう両手剣を巧みに操り、魔物の間合い外から堅実に倒していく。
そんな時、シルトアの頭の中に声が響いた。
「シト、私達も負けてられません」
「あぁ、そうだな!」
ブレスレットの明滅と共に響くラナの声、彼女の言う通りここで力を発揮してこそのメイガスだろう。
シルトアは少女の言葉に応えると魔物の大群に向けて大きく踏み込んだ。
「何する気だ!」
「下がってないと危険だぞ?」
「!? 分かったよ、無理はすんじゃねぇぞ!」
ビルケスがシルトアへ目を向けた時に見えた横顔、そこには上辺だけではない確かな自信の色が見て取れた。
そしてビルケスはその顔を信じ、数歩後ろに下がる。
シルトアが右腕を大きく振りかぶると、盾がガントレットとの接合部を軸にゆっくりと"回転"を始めた。
(サラスとの決闘前に回転しながら突っ込んできたこいつを思い出して閃いた、正確なコントロールはまだ出来ないが)
「こんだけ的が多ければピッタリだろ!」
最初は遅かった回転も次第に早まり、低い唸りを上げる盾は残像を残し宛ら巨大な円盤のよう。
強まる風圧にビルケスがシルトアを直視できなくなったその瞬間。
「さぁ行ってこい!!!」
シルトアは掛け声と共に限界まで回した盾を前方に繰り出した。
解き放たれた盾は暴風を纏いながら一直線に突き抜け、道中の魔物を纏めて削り取っていく。
そしてシルトアが右腕をかざすと奥まで食いこんだ盾は弧を描きながら舞い戻り、再び接合した盾は火花を散らしながら回転を弛める。
そして最後に金属音と共に本来の角度に収まると接合部が蒸気を吹き上げた。
「「ま、上出来だろ」」
大群の中に突っ込み一帯を薙ぎ払うヴラド、見たこともない技を使い魔物を消し飛ばしたシルトア。
2人の声が重なるとその姿に闘志を焚き付けられた冒険者達も負けじと魔物の大群に斬込み、戦いは苛烈を極めていった────
──1時間後。
開戦から暫くは優勢に立ち回っていた冒険者達だったが、予想外の事態に陣形には綻びが生じていた。
「後衛! そっちに手負いがいった!」
「低級でも良いからこっちにもポーション回してくれ!」
「1人やられた! 誰か交代を!!」
開戦直後から一転して悲痛な叫びが飛び交う最前線、第1波だからと油断していた訳では無い。
では何故ここまで逼迫した戦況になっているのか、その理由は至極単純。
魔物が手強いのだ。
第1波の魔物は縄張り争いに敗れ逃走を選択した比較的弱い魔物による大群の筈。
しかし今回のスタンピードではバーンウルフを始めとした中級区に生息する魔物が多く交じっている。
本来第2波にいるような手強い魔物が何故か第1波と共になだれ込んで来ているのだ。
「くっ! なぁビルケス! 第1波ってこんなにきついのか!?」
「いや! ここまでのは見た事ねぇ! 向こうさん、こっちにメイガスがいるからって難易度上げてきやがったか?」
額に汗を浮かべながらも魔物を仕留めるビルケスが軽口を叩くと、その言葉にシルトアは昨晩ラナに聞いた話を思い出す。
「っ! ・・・・・・ほんとにそうかもしれないな」
「なんか言ったか!?」
「なんでもねぇよ!」
シルトアは誤魔化すように盾を横薙ぎに振り払うと、体勢を崩した魔物の頭を確実に潰していく。
「畜生、このままじゃキリがないな!!」
(俺はラナの支援のおかげか大して疲れてない、だが皆は違う。 少しづつだけど崩れ始めてる・・・・・・ )
「せめて魔物が全部俺を狙ってくれればな!! 」
「でしたらちょうどいいものがあります」
「!?」
瞬間頭に響くラナの声、シルトアはその言葉に即座に反応した。
「あるのか!? 」
「ですが魔物をシトに集中させればそれだけ危険度は増します」
「まぁな、だが敵を引き付けてこその大盾ってもんだろ? 構わないからやってくれ!」
「了承、では先ず他の者が巻き込まれぬよう開けた場所まで移動を」
「分かった!!」
ラナの言葉に応え、シルトアは脚に力を込めると高く跳び上がり戦場の斜め前方へと抜け出す。
「おい、シルトア!」
飛んでいく背中を目で追いながら叫ぶビルケスにヴラドもその様子を遠くから確認していた。
(あいつ・・・・・・ 何する気だ)
そう心の中で呟くヴラドを他所にシルトアは小高い丘に着地すると、受け身をとって向き直り魔物の大群を見渡す。
「ここならいいか!?」
「はい、適正距離です。 それでは技名を伝えるので、私の合図で口に出してください」
「よし!・・・・・・ ん?」
すると頭の中に明確な単語が浮かんでくる、だがシルトアはそれよりもラナの放った言葉の方が気になった。
「口に出すの!? え、なんで?」
「不可解、古より技名は声に出すものと相場が決まっています」
「古よりって・・・・・・ 本当か?」
「・・・・・・無論です」
「今凄い間があったな!?」
この件についてもっと深く追求したいところだが今はそれどころではない。
シルトアは観念し、ため息をついて覚悟を決めた。
「くっそ・・・・・・ 仕方ない、やってやる!」
「ではいきます、せーのっ」
「狂い喰み!!!!!」
響き渡るシルトアの声、直後それに応えるように大盾に変化が現れる。
金属のぶつかり合うような音がしたかと思えば大盾の側面に通気孔が複数開き、中から大量の"赤い煙"が吹き出した。
重く粘性のある煙は地面を這い進み、瞬く間に魔物達を覆い尽くした。
その異様な光景に冒険者達が狼狽えていると、先程まで襲いかかっていた魔物は一斉にその向きを変える。
煙の出処であるシルトアの方へと。
「よし! こっちを向いた!」
と、シルトアが喜んだのも束の間。
直後、魔物達は今までとは比較にならぬほどの咆哮を轟かせながらシルトアに向けて駆け出した。
目を血走らせ唾液を垂れ流しながら、四肢を引きちぎる勢いで突っ込んでくる魔物にはもはや知性の欠片も感じない。
邪魔となる他の魔物をも食い潰しながら我先にと向かう魔物達、結果おびただしい数の魔物はひとつの肉塊となって津波の如く押し寄せた。
「ちょおい、ラナ! これどうなってんだ!!?」
「シトの希望どおり魔物達を"全部"引き寄せました」
「確かにそう言ったが、何で余計に凶暴になってんだよ!?」
しかしそんな会話をしてる内にも血肉の波は勢いを強めながら突っ込んでくる。
「こうなったら全力防御だ! ラナ、援護を頼む!」
「任せてください、シト」
シルトアは半ばやけくそ気味に両方の盾を合わせ地面に打ち据えると、全身の力を腕と脚に集中させた。
「シルトアの奴! あれを正面から受け止める気か!?」
「無理だ! もつ訳がねぇ、挽き潰されて終わりだ!!」
シルトアに向けてなだれ込む魔物を見て冒険者達は恐々とした様子を見せる。
その場から離れるよう声を張り上げるが、地鳴らしながら突き進む魔物達によって全て遮られてしまう。
何より今のシルトアの状態では真横で言われようとも届かないだろう、それ程までの緊張と圧迫感。
そして不規則に跳ねる心臓の鼓動が限界に達した時、その瞬間は訪れた。
(来る・・・・・・!!!!)
勢いのままシルトアの盾に衝突する魔物、その衝撃と響く破裂音は至近距離で大砲に撃たれたのかと錯覚するほど。
そして息つく間もなく直ぐに次の衝撃が盾越しにシルトアの身体へ伝わる。
一撃一撃が筋肉を痺れさせ骨身を軋ませるような衝撃、それが止めどなくシルトアの身に降り掛かった。
宛ら砲弾の横殴り豪雨。
何十、何百発と続く終わりの見えない雨にシルトアの麻痺した腕は感覚を失っていく。
あとどれだけ続くのかシルトアには分からない、ほんの僅かでも力を緩めれば容易く吹き飛ばされる程の衝撃に歯を食いしばりひたすら耐える。
(もう、腕が・・・・・・ 頼む!!!!)
もう無理だと思ったその時、永遠かとも感じたそれは唐突な終わりを見せた。
常に前へと力を込めていた身体は、いきなり負荷が消えたことに追い付けず体制を崩してしまい思わず膝をつく。
立ち上がる足は震え腕には力が入らない。
しかし引き抜いた盾にこびり付いた血肉を見て思わず振り払えてしまう辺り、意識が勝手に引っ張られているだけで実際のダメージは大した事ないのだろう。
そこに駆け寄るヴラドとビルケスを始めとした冒険者達、その顔には僅かに焦燥が残っているものの今は呆気に取られているといった印象だ。
その様子を見てシルトアはヴラドに向けて口を開く。
「第1波、掃討完了! か?」
「! ったく・・・・・・ あぁ、スタンピード第1波はこれにて掃討完了だ!!」
ヴラドから改めて宣言された報せ、それに冒険者達は歓喜の声を天高く轟かせたのだった。
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