第19話 期待とは裏腹に
「なぁあんた、メイガスなんだってな! ってことは銀等級だろ? 頼りにしてるぜ!」
「そうそう! 聞いた話じゃ山みてぇにデカい岩蜘蛛もぶっ倒したんだってな、期待してるぞ!!」
ヴラドによる緊急クエストが発表されてから数十分。
ギルドでは勝利を願って干し肉ではなく新鮮な肉が振る舞われていた。
無論ヴラドの計らいである。
そんな中、酒に酔った冒険者はアーティファクトを持つシルトアに対して絡みに絡んでいた。
普段この街で活動している訳では無いのだろう、メイガスと聞いてシルトアのことを手練の冒険者だと勘違いしている様子。
(誇張がすごい! 確かに大きかったが山は言い過ぎだろ!! ってかそれよりも・・・・・・)
「あぁ、えっと・・・・・・ 俺は別に銀等級じゃ──」
「何!? あんたメイガスなのか! そりゃ俺達も安心出来るってもんだ!!」
シルトアは自身の等級について訂正しようとしたのだが、更なる横槍が入り言うに言えなくなってしまった。
「・・・・・・ まぁ、やれるだけのことはやるさ。 そっちこそメイガスがいるからって油断するなよ?」
「おうとも任せとけ! 俺らが動けなくなるのは酔い潰れた時か美女を前にした時だけだからよ!」
そう言うと冒険者達は高らかに笑いながら席を後にする。
シルトアも彼らに笑って返したが、内心ではまるで笑えていなかった。
「ははは・・・・・・ はぁ」
「シラフならすぐに気付く程に嘘っぽい笑いね、まるで取り繕えてないわよ」
「仕方ないだろ・・・・・・ あの目を見て実は銅等級ですなんて言えるかよ。 それに俺だって出来るもんなら前衛で戦いたいさ」
冒険者が離れた途端にシルトアがため息を漏らしていると、ミルニアがトレイに乗った料理を持って話し掛ける。
するとシルトアの言葉に思わず隣に座るラナが反応を見せた。
「疑問、シトは私の力を信じられないのですか?」
「違う違う! そういう意味じゃなくてな・・・・・・」
「?」
その言葉に小首を傾げるラナ、すると対面に座るビルケスがジョッキ片手に口を開く。
「まぁ難しいところだよな、せっかくメイガスになったってのに1週間ちょいでスタンピードなんてよ。 もうちょいあれば銀等級に上がって前衛でやれたろうに」
そう、ここまで怒涛の日々の連続だったが日数に直せばアーティファクトを手に入れてから1ヶ月すら経っていない。
幾らアーティファクトが強力であったとしても銀等級でない以上、最前線には立たせてもらえないだろう。
「今回のスタンピードは大人しく後衛に務めるしかないってことだな」
「理解しました。であれば私は出来る限りシトをサポートします」
「ラナ・・・・・・」
その後もギルドは冒険者達の宴で賑わっていたが、日が落ち始めたのを合図に明日に向けて続々と解散していくのだった────
「ふぅ、あと必要なのは・・・・・・」
ギルドを後にし、自宅へと戻っていたシルトアはラナと共に明日の準備を進めていた。
「ポーションも数は問題無いな・・・・・・ なぁ、ラナ」
「呼びましたか? シト」
「ちょっと聞きたいんだが、今俺が使ってるこの防具や肘当て。 必要だと思うか?」
そう言うとシルトアは使い込まれ所々がへこんだ革製の防具を手に取りラナに見せる。
「確認、それは防具を身に着けていると肉体の可動域が狭まり戦闘に支障が出る為、それを考慮した上で今の防具を使う必要性があるのか。 という意味でしょうか?」
「あ、あぁ」
ラナはシルトアの短い言葉から全容を読み取り確認をとると、数秒シルトアの防具を見つめた後に再び口を開いた。
「結論から言えば必要ないかと。 この質の防具で防げる程度の攻撃であれば私の身体強化で問題無く対処出来ます」
簡潔に答えるラナ。
シルトアも薄々思ってはいたが中級区での戦闘に慣れてきた今、この程度の防具はもはやあっても邪魔になるだけだろう。
その相手がスタンピードとなるなら尚のことだ。
この先必要となるのは、ある程度の防御力を備えた上で機動性を損なわない防具。
しかしそんな都合が良い防具は中々無い、例えあったとしてもそれが自身の身体に合っているのかもまた問題だ。
(まぁ、あることにはあるんだがな・・・・・・)
そう心の中で呟くシルトアは舌の奥に僅かな苦味を覚えたのだった。
準備が終わる頃には家の外は暗闇に染まっており、明日に備える為にもシルトアが蝋燭の灯りを消そうとした時である。
「シト、1つ伝えておきたいことが」
「? どうしたラナ」
ラナに声をかけられたことにシルトアはその手を止め、向き直ると彼女の話に耳を傾けた。
「今回発生している魔物の襲撃、スタンピード 。 恐らくですがその原因を私は知っています」
「!? ほんとか! それならもっと早く言ってくれれば」
食い気味に問うシルトアに対し、ラナはその表情を変えることなく静かに首を横に振る。
「もしあの場で話していた場合、決して低くない確率で混乱を招く恐れがありました」
「? それはどういう・・・・・・」
話の意味を理解出来ないシルトア、続けてラナの口から放たれた言葉はシルトアに更なる衝撃を与えた。
「今回のスタンピード、人為的に引き起こされた可能性があります」
「!?」
シルトアは言葉を失い思わず目を見開くが、ラナはお構い無しにとそのまま話を続ける。
「前兆が無かったことにシトが強く違和感を感じていたようなので私なり原因を推察していました。 現状はこの推測が最も可能性が高いかと」
淡々とそう口にするラナにシルトアはただ圧倒されるしかなかった。
だがもし人為的に引き起こされたのだとして、もしそんなことが可能なのであれば前兆が一切無かったことにも納得はできてしまう。
だが。
「人為的に起こすったってそんな都合よく魔物が釣れる餌なんて・・・・・・ っ! まさか」
「はい、都合よく強力な魔物の死骸が北の大森林にあります。 シトが倒した岩蜘蛛の死骸が・・・・・・」
誰かが死骸を焼く時に持ち出したのか? 全ては憶測の域を出ない。
そしてラナは最後に、シルトアに向けてこう言い放った。
"明日は魔物だけでなく人にも警戒する必要があるでしょう"と────
(ん・・・・・・ 朝まで後どのぐらいだ)
ソファに仰向けになるシルトアは暗い部屋の中で静かに目覚めた。
まだ辺りは暗く日の出の気配は感じられない。
「あんまり眠れなかったな・・・・・・ まぁ当然か」
シルトアは伸びをしながら身体を起こし、立ち上がった。
そして寝る直前にしたラナとの会話を頭の中で何度も反芻する。
「やっぱり、使うべきなのか・・・・・・」
そう呟きながらシルトアは準備した荷物の中に紛れ込ませていた"あるコート"を引っ張り出す。
焦げ茶色の生地に裾がほつれ焦げ跡がついたグレートコート、そうクローゼットの奥に眠っていたあのコートである。
「父さん、俺ってもう一人前になれてるかな・・・・・・ また使ってもいいのかな」
両手で握りしめながらシルトアはコートを真っ直ぐ見つめて呟く。
その時、背後から涼やかな声が耳に響いた。
「そのコートの素材は防刃性、耐刺突性、耐火性に優れ、可動域の阻害も少ない理想的な防具です」
「!? ラナ、起きてたのか・・・・・・」
驚きつつもシルトアは聞き馴染んだその声に思わず振り返る、するとそこにはアメリアの店で購入した寝間着に身を包んだラナの姿があった。
歩み寄ってくる少女に対してシルトアは再び手に持つコートへ視線を落とすと、ラナの言葉に同調しつつ何処か自嘲するような声色で話し始める。
「ラナの言う通りこのコートは冒険者用の防具の中でも一級品だ。 もっとも元は親父のだがな」
「疑問、それほどの品をなぜ今まで使わずに?」
当然の質問だ、普通こんなにいい防具を使わないなど宝の持ち腐れもいいとこだろう。
するとシルトアは舌の奥に感じる苦味を飲み込みながら話し始めた。
「簡単な話さ、俺がまだ小さい頃に親父はこれを譲ってくれた。 舞い上がった俺はどこ行くにも着て回ったもんだ、貰う時に言われた親父の言葉なんてすっかり忘れてな」
当時の自分の姿を瞳に映して自嘲するように話すシルトア、すると次の瞬間その表情に暗い影が射し込む。
「冒険者になってまだ間もない頃、調子づいた俺は取り返しのつかないことをしでかした。 その時、親父の言葉を思い出したんだ」
『シルトアいいか? こいつは父さんの事をずっと守ってくれたコートだ。 いつかこれが似合う立派な冒険者になった姿、父さんに見せてくれ』
「自分が一人前だと思い込んでるだけの半人前だって気付いた時、自分に胸を張れるようになるまでこのコートを使わないと決めたんだ」
話を終えたシルトアは息をつくと両手に取ったコートに向けて視線を落とす。
「理解しました。 ですがシト、今それを手に持っているということは」
「いや、別に防具的にあったらいいかなって思ってるだけで、別に無くても今はあの盾もあるし・・・・・・」
誤魔化すようにそう口にしたシルトアはコートを手にしたままソファに腰かける。
別にと言いつつもその顔付きは何かを堪えているようで、視線はコートへと釘付けになっていた。
「シト、嘘は良くありませんよ。 本当は使いたいのではないのですか?」
「別にそんなこと!」
意地になったように顔を背けるシルトアに対してラナはとある策を仕掛ける。
「説明、私は相手が嘘を述べているかを見抜くことが出来ます」
「な!? そんな──」
「嘘です」
「・・・・・・」
見事に手のひらで転がされ、途端に押し黙るシルトア。
自身の過去を語った上で肝心なところは自分で決めきれない。
その姿はまるで誰かに"もう使っていいよ"と言ってもらえるのを待ちわびているかのよう。
「やはり使いたいのですね」
「まぁな・・・・・・ ラナの話を聞いて後衛にいる場合じゃないって思ってさ。 だったら使うべきなんだろうが、どうしても自分が一人前の実力を身につけたって自信が無いんだ」
「実力さえあれば一人前になるのでしょうか?」
「!?」
その言葉にこれまでコートにしか向けてなかったシルトアの視線が上に向き、ラナの水晶のような瞳と目が合った。
「シトのお父様が口にした"一人前"という言葉。 実力も重要ですが、何よりも重要視するべきは"心構え"ではないかと私は推察します」
「心構え・・・・・・」
何故か分からない、ただ直感的に心構えという言葉が凄くしっくりきたのだ。
無感情のように思える少女が、否。
無感情のように思えるからこそ、彼女の言葉がシルトアの心に深く染みたのである。
(誰よりも感情が薄いように思える相手に教えられるとはな・・・・・・)
気付けば先程まで頭を縛っていた余計な思考は解け、シルトアは確かな意志を持って勢いよく立ち上がれた。
「よし!」
ラナを見つめるシルトアの瞳にはもう迷いは無い、あるのは澄み渡った青空のように晴れ晴れとした表情のみ。
「変に考えるのはやめだ、今は使えるもん全部使ってやるべきことをやる。 それだけだ!」
いつの間にか白み始めた空から眩い光が射し込み、2人の顔を明るく照らす。
「丁度時間だな。 行こう、ラナ」
「はい、シト」
シルトアは握り締めたコートを大きく翻し、袖を通す。
(久しぶりだ・・・・・・ やっぱり、しっくりくるな)
扉を開き一歩を踏み出す。
前に同じような時間に家を出た時は古代遺跡の探索の時だったか。
だが今日は1人じゃない。
目指すは北の大森林、スタンピードの阻止だ。
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