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第15話 名前

暖かな陽気の午後、シルトアと少女は賑わう大通りを人々に注目されながら歩いていた。

すぐ隣に可憐な少女がいることもあるだろうが、最たる要因は異彩を放つ巨大な鉄塊を担いでいるせいだろう。


「やれやれ、数日間は謹慎かぁ・・・・・・」

「マスターがやりすぎるからです」

「それは、あいつが全力でやれって」


両手と頭で盾を支えるシルトアはため息の混じりに呟くが、それに対し少女は正面を向いたまま冷静な答えをぶつけてくる。


クエストを受ける筈だったシルトアと少女が何故、こうして大通りを歩いているのか。





それは決闘を終えた直後、サラスはその場を後にしようとした。

しかしそこに轟音を耳にした巡回中の騎士らが駆けつけたのである。


何とかサラスが擁護してくれたものの騒ぎを起こしたことに変わりは無い。

結果として騎士団が最終的な処遇を決めるまでの間、シルトアには冒険者活動の謹慎が言い渡されてしまったのだ────






「それにしても、まさか腕を上げるだけで呼び寄せることが出来るとはなぁ」

「回答、より意志を明確にする為に動きを付けましたが慣れれば念じるだけで同様のことが可能になります」

「まじか! それは覚えないとだな。 あとは力加減も考えないと」


(あれでも最後の直前、かなり力を抜いたつもりだったんだがな・・・・・・)


シルトアは改めて盾を引き寄せた力に感動すると共にその威力を実感し、制御について考えさせられていた。


「戦法としてはまだ調整が必要ですが、長所を発揮できる良い戦い方だったかと」

「! そっか、ありがとな」


2人が並んで歩いていると疑問に思ったのか少女が口を開く。


「マスター、ところで今は何処へ向かっているのですか?」

「あ、あぁ・・・・・・」

「疑念、もしや何も考えていないのでは?」

「ぐっ、仕方ないだろ! クエスト受けようと思ってたのに謹慎になったんだから」


現在シルトアはクエストの受理に遂行、完了報告までもが停止されている。

唐突に予定が無くなり、半ば上の空で歩いてしまっていた。


「まだ昼過ぎだからなぁ、いっそ街の案内でも──」

「お! シルトアじゃねぇか!」


その時、大通りの建物沿いからシルトアの名を呼ぶ声が耳に飛び込む。

振り向けば看板に大きく串焼きと書かれた屋台から小太りな男性が顔を覗かせており、シルトアに向けて大きく手を振っていた。


「おぉ、おっちゃんか! 腰はもういいのか?」

「お陰様でな! 前は店手伝ってくれて助かったよ」


歯を見せて笑う男性は額から汗を流し、髪が落ちぬよう頭を布地で覆い縛っていた。

その手元で並べて焼かれる串肉のからは食欲を刺激する香ばしいスパイスの匂いが漂い、肉の焼ける心地よい音が胃に直接訴えかけてくる。


「噂になってるぜ、ついにアーティファクトを手に入れたってよ! この人混みでもすぐに見つけられたぞ」

「お、おぅ! もうみんな知ってるのか」


(危ねぇ、見つけやすいってこの盾があるからだよな・・・・・・? 変態趣味の犯罪者とかの話までは出回ってないよな?)


「・・・・・・」

「もしかして、食べたいか?」

「はい、興味があります」


シルトアの心配を他所に無言で串焼き肉を見つめる少女、その様子に気付いたシルトアが声を掛けると屋台の店主が勢いよく身を乗り出した。


「なんだぁ? 随分愛らしい嬢ちゃんじゃねぇか!」


(良かった、この様子なら流石にあっちの話までは聞いてないみたいだな・・・・・・)












「ふぅ、すっかり話し込んじゃったけど。 でも良かったな」

「はい、とても美味しいです」


2人は屋台を後にし、オマケで3倍の量になった串焼き肉を味わいながら再び大通りを進む。


するとまたしてもシルトアを呼ぶ声が耳に入った。


「あらシルトア、今日はお休み?」

「こんにちはおばさん、そんなところです。 今日の調子は?」

「バッチリよ! まだまだ若い子には負けないんだから!」


声を掛けたのは道沿いに花屋を構えるふくよかな女性、店頭には色鮮やかな花々が一面に並び柔らかな花の香りで満たされている。


シルトアが店主の女性と近況について世間話をしていると、今度は軽快な足音と共に店舗の奥から数人の子ども達が飛び出してきた。


「シルトアーーー!!」

「そのでっかいのなに〜? 重くないの〜」

「のわぁ! 」


シルトアを取り囲む7、8歳頃の少年少女。

じゃれつく子ども達は、よじ登るは腕にぶら下がるの大騒ぎ。


その光景に神の使いである少女が1歩引いた所から眺めていると、店主の女性が声を掛けてきた。


「あの子から聞いたけど、お嬢ちゃんが神の使いなんですって?」

「はい、肯定します。 質問なのですがマスターはいつもあのような様子で?」

「えぇ、あの子は店番や家屋の修理に掃除とかの細々とした依頼を全部やってるの。 だからこの街に住む人なら皆あの子のことは知ってるのよ」


子ども達に遊ばれながらも満更でもない笑顔を見せるシルトアとそれを見つめる少女。

すると店主の女性は少女に、純白に輝く美しい花を包んだ花束を手渡す。


「これは?」

「お祝いよ、ラキューナの花にはその透き通るような白色から明るい未来を願う相手に贈る花束なの。 あの子のこと、お願いね?」

「・・・・・・はい、了承しました」



そう答えた少女は受け取った花束を小さな腕で力強く抱き締めたのだった。










──それから数時間後。



日はすっかり傾き、心地よい夕焼けが空を染め上げる。

シルトアと神の使いの少女は落ちる陽射しを受け、暖色に輝く小川に沿いながら帰路についていた。


「お、重い・・・・・・」


あれからも同じように引き止められてはお祝いと称し大量の果物や野菜が手渡され、今や担いだ盾の上に隙間なく積み上がっている。


「マスターは街の住人から信頼されているのですね」

「まぁ、困ってる人ほっとくのは忍びなくてな。 それに俺が目指す英雄ならこうするかなって」

「・・・・・・ マスターは、本当に私と契約して良かったのですか?」


花束を抱きしめる両手に力を込め、少女はシルトアに尋ねた。

思わず足を止めて少女に向き直ると、真っ直ぐシルトアを見つめる瞳の奥には僅かに不安が揺らいでいるようにも見える。


「それは、どういう・・・・・・」

「この一日を通してマスターは多くの人から信頼され大切に思われていることを知りました。 ですが、私のせいでその幸せを失うかもしれません」


少女は今日、ギルドで起きたトラブルについて言っているのだろう。

違法アーティファクトを所持している疑いに加えて有らぬ疑いまで掛けられ、結果的に決闘にまで発展した。


(何考えてるのかイマイチ分からなかったが、結構気にしてたんだな・・・・・・)


事実、たった1日でこれほどの騒ぎが起きたのである。

彼女が特異なアーティファクトである以上、今後はより大きな騒ぎに巻き込まれるかもしれない。


だが。


「まさか、むしろ感謝してるよ」

「え?」

「確かに今までよりも問題は起きるだろうし、困る時もあるだろうな」

「では──」

「だがそれでも後悔はしない、君がいたからあの時死なずに済んだ。 起きた問題以上に君は俺を助けてくれたんだから」


目を丸くしながらこちらを見つめる少女に向けて、シルトアは笑みを浮かべながら言葉を続ける。


「それに他とは違うアーティファクトってのも特別感があるしな!」

「・・・・・・ありがとう、ございます。 マスター」


感謝の言葉を口にする少女、そんな彼女に対してシルトアも気にしていた事について言及した。


「それと、やっぱりそのマスターって呼び方がむず痒くてさ。 出来れば別の呼び方がいいんだが・・・・・・」

「了承しました、では主様と」

「他のは無いか?」

「ご主人様」

「変わってないだろそれ」

「我が全てを捧ぐ御方」

「長いわ! 悪かった、普通に名前で呼んでくれ」


シルトアは要望を明確に伝えると少女はしばらく考え込んだ後、口を開く。


「それでは・・・・・・ シト、と」

「! いいなそれ、じゃあ次は君の名前だな」

「・・・・・・え?」


驚きで思わず声を漏らす少女。

まるでそんな言葉を掛けられること自体ありえないと思っていたような反応だった。


「名前、無いと不便だろ? いつまでも君とかあの子ってのもな」

「良いのですか?」

「当たり前だろ? 実はずっと考えてたんだが、中々思いつかなく──」


そう口にするシルトアの目には少女が抱きしめる花束が写る。

少女の髪のように曇りのない透き通った白色の花弁、ラキューナの花束だ。


(ラキューナ・・・・・・ ラ、ュー、ナ・・・・・・ ラ、ナ)


「・・・・・・ラナ」

「!」

「そうだ、ラナ! それが君の名前だ」


その瞬間、ラキューナの花弁は風に舞い上がり川のせせらぎと木々が凪ぐ音が2人を包み込む。

なびく髪は彼女の隠れた瞳を覗かせ、夕焼けを取り込んだ虹彩は色鮮やかに輝いていた。


少女、いやラナの表情に変化は無い。


だがシルトアには彼女が満面の笑みを見せてくれた、そう強く感じ取れたのだった。





















ここまでお読みいただきありがとうございます!


・面白かった!

・続きが気になる…!

・取り敢えず良かった!


と思えば是非とも☆評価をお願いいたします。

何よりの励みになりますし今後の活力となります!!


どうぞよろしくお願いいたします。

それでは次の話でお会いしましょう!

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