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第14話 閃光の剣戟

シルトアはサラスを捉えたという確信があった。


しかし現実は手応えの無い空を殴りつけただけ。


直撃の寸前、サラスは瞬き程の速さでシルトアの背後に潜り込んでいたのだ。

そして息付く間もなく、矢の如き鋭い突きがシルトアの背に向けて放たれる。


「はぁあ!!」

「っぅ!」


咄嗟にシルトアは左腕の盾で剣筋を逸らしたが、空振りした姿勢では防ぎきれず肩口を切っ先が僅かに抉る。

焼けるような痛みに顔を歪めながらも向き直るシルトア、対して即座に距離を離した後に再び構えるサラス。


「速ぇ…想像以上だな」

「幹部騎士とは言えど、女の身で放つ剣技など大したものではないとでも思ったか?」


次の瞬間、サラスはシルトアの眼前に迫り神速の連撃を放った。

前方広範囲から襲いかかる剣閃の豪雨、神の使いである少女の援護もあり直撃は防げるものの手が出せない。

連撃の合間を見計らい反撃を試みるが容易く避けられる上、すれ違いざまに斬りつけてから距離を取られる。


「くっ・・・・・・」

「どうした? 剛力無双と謳われるメイガスの力はこの程度か!」


サラスに言い返してやりたい所だが、ここまで一方的にやられては返す言葉も見つからない。

防戦一方のまま決闘を進めているとサラスはシルトアに向けて奇妙な問いかけを口にした。


「まさかと思うが、その武器をただの大盾だと思っているんじゃないだろうな」

「? どういう意味── !」


サラスの言葉の意味が分からずに隙を見せたところを蹴り飛ばされるシルトア。

するとサラスは軽い手振りを織り交ぜながら話し始める。


「君は自身を並の大盾使いだと考えているのではという意味だ。 左腕を前に身を守りながら肉薄し隙を見て攻撃を挟む、大盾使いにおける基本に忠実な動きだ」

「・・・・・・」


全くの図星である。

シルトアは今まで扱ったことが無い武器種なだけに、その戦法を己が知る大盾使いの定石に当てはめてしまっていた。


「だがそれでは高い身体能力も無駄遣いでしかない。 その盾は貴様だけのもの、倣うのではなく君自身が編み出すのだ」

「!」


サラスの言う通りである、定石に縛られ己の強みをまるで活かせていない。

これなら変に考えずに戦った岩蜘蛛の時の方が、余程マシな動きをしていただろう。


「その上、出来もしない手加減をしているようでは私に一撃も見舞うことは叶わんぞ?」

「な、何を根拠にそ──」

「その迷いきった目を見れば誰でも分かる。 怖いのだろう? 己の手に握られた力の強さが 」

「っ!!」


心意を突かれたシルトアは目を見開く。

規格外の巨体を持つ岩蜘蛛を一撃で沈めた破壊力を持つ盾、彼はそんな代物を人に向けることに思わず躊躇してしまっていたのだ。


「手加減というのは相手と己の力量を正確に測れて初めて成立するのだ。 相手どころか自身の力量も把握出来ない素人が試していい事じゃない」

「・・・・・・」


「余計な考えを巡らす前に、まずは今出せる自分の全力を見せてみろ!」


サラスの声は徐々に荒みが増し、その言葉一つ一つがシルトアの心を叩き直す。


(そうか、決闘の場を用意した本当の理由は・・・・・・)


大きく息をつきシルトアは両の手の平で頬を叩き気合いを入れ直した。

迷いの無くなったシルトアの面持ちにサラスは僅かに目を丸めると笑みを零す。


「ここからは、期待できそうだな」


「あぁ・・・・・・ 」


返事を返したシルトアは瞳を閉じ、頭から憂慮や疑念といった余計な思考を吐く息に乗せて叩き出した。

残ったのはどう戦い、勝つかのみ。

それだけに全神経を集中させた。



数秒の後、瞼を上げたシルトアは何か思い付いたのか少女に声を掛ける。


「試してみたいことがある、防御は任せてもいいか?」

「お望みのままに、マスター」


「よし、いくぞ!」


迷いのない即答に感謝しつつ、シルトアは掛け声と共に思い切り地面を蹴り上げた。


先程とは比べ物にならない爆発的な加速、瞬く間にサラスの眼前にまで迫るが彼女はシルトアを見失うことなく構えを取る。

しかし直後、サラスの視界からシルトアが忽然と消えた。

再び位置を把握するまでの僅かな遅れ、それは彼女の足元へ潜り込んだシルトアにとって充分な時間である。


「!?」


屈んだシルトアは盾を軸に身体を回しサラスの足を払う。

上段への攻撃に備えていたサラスは反応が遅れバランスを崩してしまう、そこに間髪入れずシルトアは盾を打ち込んだ。


咄嗟に剣でいなしながら後ろに跳躍することで直撃を免れるサラス。

逃すまいとシルトアは肉薄し相手に立ち上がらせないよう、しゃがんだ姿勢での近接戦闘に持ち込む。


「くっ! やりずらいものだな!!」

「突きが主体の刺剣に座技はきついだろ!」


火花を散らしながらぶつかり合う盾と剣。

しかしサラスは俊英と謳われるほどの騎士、このまま押し通せるほど甘くは無い。


完全に膝をついた所を上から叩き潰そうとシルトアが盾を振り下ろした時。


「そう簡単に取らせるか!」


サラスは盾を受け流すとそのまま火花と共に剣を滑らせ前に踏み出す。

そしてシルトアを跨ぐように剣を地に突き立て起点とし、身を翻し距離を取りつつシルトアの背に光速の突きを数撃見舞った。


「っ! 流石に一筋縄ではいかないか!」


華麗に降り立つサラスに対し、シルトアも即座に立ち上がると振り返りながら構え直す。


「良い動きだったぞ、私以外の刺剣使いなら今ので決まっていただろう」

「まるで勝ったみたいな物言いだな、言っとくがまだ終わりじゃないぞ」

「ほう、ならば次で終わらせてやる」

「やれるもんならな!!!」


啖呵を切ったシルトアは先程同様、サラスへと距離を詰めながら左腕を振りかぶる。


「同じ手が効くとでも!!」


2度目は無いと脚に力を込めて構えるサラス。



(俺の戦い方、俺にしか出来ないこと。 それは!)



「これだ!!!」


シルトアはまだサラスに届くはずのない距離で構えた腕を振り抜いた。

その瞬間に左腕の盾とガントレットを繋ぐ留め具が外れ、盾は勢い良くサラスに向けて放たれる。


「なっ!?」


サラスは予想だにしなかった事態に思考が鈍り、躱せたものの僅かに肩を盾が掠った。


「まさか投げて寄越すとはな!」


背後で音を立てて地面に突き刺さる盾を横目に、サラスは今もこちらに距離を詰めている筈のシルトアへと目を向ける。


しかしその視界にはシルトアの姿が写ることは無かった。


「!? 一体どこに・・・・・・」


「上だ!!」


直後響いたシルトアの声。

それに釣られてサラスは頭上を見上げると、そこには太陽を背に飛び上がったシルトアの姿があった。


「避けられぬ空を選ぶとは甘いな!」

「それはどうだろうな!!」


迎撃の構えを取るサラスに意味深な言葉を放つシルトア。

直後、彼女の視界は足元に走る衝撃と共に大きく揺らいだ。


「!?」


ぐらつく視界の中で捉えたのは、己の足元を掬い上げたであろう黒い鉄塊。


(あれは、さっきの!!)


それは先程シルトアが投擲した盾であった。

シルトアはガントレットに盾を引き寄せることで、その進路上にあるサラスにぶつけたのである。


するとそのまま引き寄せられ向かってくる盾が腕に繋がる前に掴むと、シルトアは身を翻し掴んだ盾に両足をつけた。


「くっ! 」

(起きれないっ!!)


転倒時に頭を打ったサラスは直ぐに起き上がることが出来ず、それが致命傷となる。


「行くぜ騎士様!!!」


さながら水中で壁を蹴り進むのと同じように盾を蹴り急加速するシルトア。


そして身動きの出来ないサラス目掛け、速度を乗せた右腕の盾を思い切り叩き込んだ。



ひび割れ窪む地面、噴火する火山の如く吹き上がる土煙。

観戦していた冒険者の全員が眼前の光景に固唾を飲んだ。











「うっ・・・・・・ん?」


声を呻かせるサラス。

次第に晴れる土煙の中、彼女はゆっくりと瞼を持ち上げる。


視界に写ったのは、地を穿ち聳え立つ盾の姿と心配そうにこちらを覗き込むシルトアの顔。


「ふっ・・・・・・ 参った、君の勝ちだ」

「手加減しただろ」

「まさか・・・・・・ 」


するとサラスは何処か満足気な表情で、静かにそう呟いたのだった。




















ここまでお読みいただきありがとうございます!


・面白かった!

・続きが気になる…!

・取り敢えず良かった!


と思えば是非とも☆評価をお願いいたします。

何よりの励みになりますし今後の活力となります!!


どうぞよろしくお願いいたします。

それでは次の話でお会いしましょう!

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